ハッシュドビーフは、罪の味

 現在わたしは、オタカフェに顔を出しています。

 新メニューの開発のために。


「えー。では、新メニューを作っていきたいと思います」


 パチパチパチと、拍手がわきました。そんな大層なメニューではないのですが。


 試食してくれるのは、いつものメンバーです。

 シスター・エマと、同じくシスターのフレンが、また来てくれました。

 ヘルトさんとカレーラス子爵もいます。

 場所を提供してくださったオカシオ伯爵には、感謝しかありません。


「材料は、スライスした玉ねぎと、牛の切り落とし肉を使います」


 玉ねぎを薄く切って、牛肉と一緒に炒めます。


「ルーは、デミグラスソースを使います」

「いわゆる、ビーフシチューね」

「そうですね。ビーフシチューに味が近いかと思います。お肉も安いですし、赤ワインなどは使っていませんが」


 今回は、あくまでも試作品ですから、これでいいでしょう。

 コンセプトは、ライスに合うシチューですし。


 お肉と玉ねぎを、ソースで煮込んでいきます。


「クリス、玉ねぎをアメ色にしたりはしないのね?」

「カレーのようにコクが必要かどうかわからないので、サッパリめに仕上げてみます」

「わかったわ」


 そこからエマは、黙って料理の工程を見守っていました。


 本当は、いいお肉のほうがおいしいのでしょう。しかし、予算的にリーズナブルな方がいいと思ったのです。失敗のリスクも抑えたかったですし。


「いやあ、もうこれだけでおいしそうね」

「そうそう。安物のお肉を使っているだなんて、思えないくらいよ。すごくぜいたくな香りね!」


 ヘルトさんとカレーラス子爵からは、絶賛の声が。


 そんな大層なものでしょうか。ワインに合うかもわからないのに。


「クリスは実際に食べてみたの?」

「近いものは。おそらく、これだっておいしいと思います」


 ただモノマネでやっているので、期待しないでくださぁい。


「できました!」


 わたしなりの、シチューライスの完成形ができあがりました。


「召し上がってください」

「ええ、ありがとうクリス。いただくわ」


 エマが、シチューライスをすくって、口に入れます。


「これ、おいしい!」


 すごいです。エマのスプーンが止まりません。


「ホント! 冗談抜きで、ライスと抜群に合うわ!」


 ヘルトさんが、初めてシチューライスを褒めてくれました!


「これ、いいですね! 最高!」

「ステキだわ。シチューとライスの組み合わせに、こんな世界があったなんて」


 元々シチューライス肯定派だったシスター・フレンと子爵も、気に入ってくれたようです。


 そんなにおいしいなら、わたしも。


「これは! 我ながら……罪深うまい!」


 まさか、玉ねぎと牛肉だけで、ここまでおいしくなりますか。サラサラなので、ライスがパラパラ、サラサラといただけちゃいます。


 ニンジンとジャガイモをどけて、正解だったかもしれません。あればあるなりにおいしいかもしれませんが、シチューが主張しすぎていたでしょう。


 わたしはシチューのトロみとライスを合わせるのが好きなのですが、そこが苦手という人にはぴったりなのでは?


「シチューっぽさがなくなっていませんか? あっさりしすぎているとか」

「これくらいがいいわね。あとは専門家が、微調整してくれるでしょう」


 エマが語ると、オカシオ伯爵も「任せてくれ」と返しました。


「新メニュー決定だ。これこそボクの求めていた、ライスに合うシチューだよ」


 よかったです。ようやく、険しい森を抜けた気がしました。


 ただ、問題が一つ。


「名前はどうしようかしら?」

「うーん、『シチューライス』というと、やっぱり抵抗があるかも?」


 エマとヘルトさんが、再び難問の迷宮に迷い込んでしまいました。


「この料理名は、『ハッシュドビーフ』としよう」


 珍しく、オカシオ伯爵が一発で命名します。

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