ドリアも焼きカレーも、罪の味

 日を改めて、ライスに合うシチュー作りに取り掛かりました。

 

 場所は引き続き、オタカフェです。


 まあ、撮影もあるのですが。


「今日もステキよ、クリスちゃん!」


 着せかえ人形みたいに、わたしは色んな服を着ましたね。

 昨日とは打って変わって、わたしが魔女ルックです。

 ヘルトさんが、シスター役ですよ。


「ああ。さすがに衣装だけでは、ヘルトの性格の悪さは浄化されないわね」

「ほっといてよっ」


 ヘルトさんが怒るのも、わかりますね。


 わたしもヘルトさんもミニスカって、どんな判断なのでしょう?

 ヘルトさんに至っては、純白のガーターベルトですよ。

 悪趣味極まりないルックスですね。

 その筋の人にはウケがよさそうですけれど。


「ありがとうね、新メニュー開発に付き合ってくれて」


 今日は、オーナーのオカシオも交えました。


「いえいえ。食べ物のためなら、いつでもかけつけますよ」


 タダ飯をいただけるのでしたら。


「あたしたちも、役に立っているかしら?」


 シスター・エマが、伯爵に問いかけました。

 ちなみに彼女は、悪魔コス姿です。


「背徳的な衣装ですね」


 付き添いのシスター・フレンも、小悪魔ルックですよ。彼女は異常にミニスカが似合います。


「いいわ、あんたたち。この三人なら、めちゃくちゃにされてもいいと思えちゃう」


 ヘルトさんが、なにかに目覚めそうですよ。 


 撮影会も一段落し、食事になりました。


「こんなのは、どうかな?」


 目の前に現れたのは、小さい器に盛られたグラタンです。

 プツプツと気泡が立っていますね。

 空気が弾けるたび、クリームシチューの香りが際立ちます。


「やけに小さい容器ですね?」

「試食会だからね」

「ですが、これはどう見てもグラタンですよね?」

「食べてみれば、違いがわかるよ」


 それはそうなんでしょうけど。


「フォークがありませんよ」

「そこなんだ。スプーンで食べてみて欲しい」


 オオカシオ伯爵は、自信ありげに答えました。


「では、いただきます」


 わたしは、グラタンにスプーンを差します。


 それだけで、違いがわかりました。


 すくいあげると、パスタと思っていたのはライスです。


「なるほど、こういうことなんですね?」


 フォークがないなぁ、と思っていたのですよ。これはたしかに、スプーンで食べるものですねぇ。


「ドリアと言うんだ。めしあがれ」

「はい。ごちそうになります」


 では、お味の方は……。


「おおーっ、罪深うまい」


 ハフハフッ。これは気をつけないと、口をヤケドしてしまいます。ハムハム。


 焼くことで、香ばしさがより際立っています。

 ドリアを覆っているチーズも、たまりませんね。

 クリームが、こんなにも香り立つものになるとは。

 具材のエビとイカもプリプリです。


「これは、チリソースが欲しくなるわね」


 エマが香辛料の小瓶を出して、赤い液体をドリアに混ぜました。


「うん。これ、最高!」


 どうやら、エマも辛いもの好きなんですね。


 エマの様子を見て、子爵もヘルトさんもチリソースをかけて食べ始めました。


 わたしは辛いものが苦手なので、遠慮しておきましょう。 


 全部食べちゃいました。これは、おいしかったです。が、物足りませんね。


「子爵もヘルトも、カレーが好きだろ? こういうのも用意してみたんだ」


 今度は、焼いたカレーライスが出てきました。

 中央に、目玉焼きが乗っています。

 サイズも、ドリアと同じ試食タイプですね。


「焼きカレーだよ。こちらもどうぞ」


……ぬおお罪深うまい!


 これは、見事なカレーです。

 濃いですね。

 オコゲの苦味に、辛味が負けていません。

 こちらの具材は、牛肉の切り落としでした。


「すごくおいしいわ。メニューとしては、最高ね。でも、こちらはやはりグラタンの色が強くて、こっちはカレーよね」


 エマの意見は、もっともです。


 ライスに合うシチューのコンセプトからは、いずれも外れるかと。


「そうか。もうちょっと考えてみよう」

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