シチューにライスは罪ですか?

 わたしとシスター・フレン、カレーラス子爵の前に、ライスが運ばれてきます。


 やはり、シチューと言えばコレでしょう。


「教会の炊き出しでも、シチューにライスはないわよ?」


 シスター・エマが、指摘してきました。


「そうなんですよ。ずっとガマンしていたんです」


 わたしは、ライスを口に含んで、シチューを迎え入れます。


 これこれ! これぞ罪の味ですよ。実に罪深うまい。


 ライスの甘みと、シチューの甘みが融合して、かつてない旨味が引き出されるのです。

 パンでは味わえない満たされる感じも、たまりません。

 ボリューミーで、食べごたえがあるのです。


「あのね師匠、カレーじゃないのよ?」

「だから、いいんじゃないの」


 子爵は、ヘルトさんの言葉に耳を貸しません。すっかりシチューライスのトリコです。


 どうしてシチューにライスは受け入れられないのでしょう? 一種の宗教観に近いです。なぜか、邪道呼ばわりする方が多いですね。


「ねえ、メイドさん、シチューライスってメジャーなの?」


 エマからの質問に、メイドさんも困惑しています。


「なさる方は、少ないです。が、好きな人は好きみたいです。割とウチでも出ますね」

「少数派とはいえ、浸透はしているのね」


 不思議そうに、エマはわたしたちを見つめていました。


「でも、抵抗はあるわね」


 ヘルトさんは、まだ手を出せなさそうです。

 お酒を飲むので、お腹を満たしたくないという気持ちもわかりますが。


 しかし、わたしでさえ目を疑う光景が、飛び込んできました。


 シスター・フレンが、ライスの上にシチューをぶっかけ始めたではありませんか。


「あれはどうなの? クリス」

「さすがにそれは……」


 わたしでさえ、それは邪道なのではと思わせる現象でした。


「合うんですか? フレン」

「私は、子どもの頃からこの食べ方です」


 なるほど、いたって日常の風景であると。


「でも、あたしたちの前では、初めて見せるわよね?」

「他の人を見ると、誰もやっていなかったので」


 フレンも、自分が異端者であると気づいたようで。


 ですが、あの邪道には乗ってみるのも手かもしれません。ライスとシチューを愛する者同士が、壁を作ってどうするのでしょう?


「すいません。おかわりをハーフサイズで。あと、ライスも」

「かしこまりました」


 わたしは、シチューのおかわりをもらいます。ライスも同時に。


「失礼して」


 フレンにならうことにしましょう。

 ほんのちょっとだけ、シチューをご飯にかけてみました。

 カレーとはまた違った香りが漂いますね。なんだか、ドキドキしてきましたよ。


「クリス!?」


 ありえない、と言いたげに、エマが眉間にシワを寄せます。


「いただきます」


……あらまあ! 罪深うまい!


 こうなるんですね?

 濃厚なシチューがライスに絡みついて、おいしさが引き立っています。

 シチューを同時に食べるのではなく、かけるという発想は、ありませんでした。

 これはこれで、アリかも知れませんね。


「クドくならないの?」


 たしかに、ライスは甘みが高いですから、シチューとの相性を気にするのはわかります。


「一度、食べてご覧なさい。それで決断さなってみては?」


 わたしは、残ったライスをエマに差し出しました。


「そうね。偏見はよくないわよね」


 エマが、わたしのお皿からライスをすくって、シチューと一緒に食べます。


「ああ、なるほど。わかる気がするわ」


 シチューライスを口に含みながら、エマは何度もうなずきました。

 それ以上スプーンは進みませんでしたが、毛嫌いする様子はありません。


「そうなの?」


 今度は、ヘルトさんがシチューライスを食べ始めました。


「うんうん。これはなかなか、オツな味がするわ」


 満足げではありませんが、珍味を食べたような表情を、ヘルトさんが浮かべます。


「でも、一口で十分ね」

「そうね」


 やはり、お口に合わなかったようです。


「ライスに合うシチューがあれば、食べられそうですか?」

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