クリームシチューは、罪の味

 シチューの入ったお皿が、わたしたちのテーブルに並びました。


 湯気だけでも、おいしいとわかります。


 メイドさんたちは、わたしにお水をくれました。他の人たちにはワインを注ぎます。


「では、いただきますね」


 木のスプーンを持って、シチューを口にしました。


 これは、罪深うまい。


 罪のにごり湯ですね。これは、実においしいです。具材の味わいが、シチューの中に溶け込んでいますよ。


 わたしは貧民街で、よくシチューを振る舞うことはあります。

 ですが、まるで敵いません。こんな味が出せるかどうか。


 それにしても、濃厚な味わいですね。山の幸以外も入っているかのような。


 具材の方も、いただきましょう。


 真っ白い海の中に、ニンジンとジャガイモが浮かんでいます。

 ニンジンは、噛むとホロホロと崩れていきました。

 ジャガイモはホクホクで、呼吸しながら食べないとヤケドしそうです。

 お肉は鶏ですね。引き締まったモモのお肉です。弾力があって、おいしいですね。


「あっ、サーモンまでありますよ」

「ホントだわ。おいしいわね」


 シスター・エマが、サーモンを発見して口へ運びました。


「サーモンの塩気が、シチューの中で主張しているわね」

「おいしいですね、エマ先輩。具沢山で最高です」


 フレンも、満足しているようです。


 あとはブロッコリーと玉ねぎと……?


 わたしは、プリプリした物体をすくいあげました。小さくて、やや黒っぽいですね。なんなんのでしょう。


「これは、なんでしょう?」

牡蠣かきです。貝類ですね。今が旬なんですよ」


 メイドさんが、そう教えてくれました。


 ほほう、貝の一種ですか。すばらしい。


 どれどれ、ちょっとひとくち……。


 うん! これは、なんとも罪深うまい。


 どの食材より、旨味が強いです。小柄な身体なのに、もっとも味が濃くて。舌触りも、食感も独特ですよ。まさしく、小さな巨人ですね。


「なるほど。おいしさの秘密はこれだったんですね?」


 どうりでシチューの味がいつもと違うと思っていました。こんな具材が隠れていたなんて。


「シチューって、ありふれた料理だって思っていたけど、お店で食べると違うわね」


 ワインを片手に、ヘルトさんがシチューを堪能しています。


「カレーもいいけど、シチューの甘みもワインと相性抜群よね」


 普段から激辛好きなカレーラス子爵も、シチューの味に酔いしれているようでした。


「やっぱ、この牡蠣がいいのよ。牡蠣があるだけで、お酒が進むわ」

「そうねぇ。牡蠣ってフライにするか、とれたてをさっと食べるかしかないと思っていたけど、こういう食べ方もあるのね」


 二人は、鶏肉を食べては赤ワインを。牡蠣を食べては白ワインと、お酒を変えています。


「シチューで、こんなぜいたくが感じられるなんて」

「工夫次第で、ありふれた料理もこんなに美味しくなるんですね」


 シスター組も、シチューを楽しんでいました。


「シチューには、なんといってもこれでしょう」

 

 わたしは、パンの乗ったカゴに手を伸ばします。


 パンにつけて、シチューをいただきました。


 小麦粉と小麦粉なのに、どうしてこんなにも人を魅了するのでしょう?


 わたしはグラタンを好んで食べますが、シチューはまた違った趣がありますね。あれも小麦粉同士の料理なのに、あの味わいはなんなのでしょうね?


「パンにつけるのもいいのですが、もうワンクッションほしいですね」


 そう思い立ったわたしは、メイドさんを呼びます。


「すいません、ライスをいただけますか?」


 手を挙げると、メイドさんが注文を受けてくださいました。


「あっ! わたしも!」

「そうね。アタシもライスをちょうだい」


 フレンと子爵が、同時に席を立って手をあげます。


「ちょっとクリス、フレン、あんたマジなの!?」

「ウソでしょ、師匠!?」


 エマとヘルトさんが、信じられないという表情を浮かべました。


 え? ライスを頼んだだけですよ?

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