魔法少女 シスター・クリス

 わたしは、ヘルトさんの格好に舌を巻きました。


 布と同じ、薄い生地の赤いドレスを身に着けています。どこか、幼児向けアニメっぽい衣装ですね。露出は高くキワドいですが、エロティックな雰囲気ではありません。動きやすさが重要というか。


「魔法少女 ヘルトの誕生よ!」


 カレーラス子爵が、弟子の晴れ姿に興奮していました。


「やだっての!」


 しかし、弟子の方は駄々っ子のように嫌がっています。


「ガマンなさいよ。あんたにもごちそうしてあげるから」

「いいわよ、そんなの! 三人で分け合ったらいいじゃん!」

「一度、あんたを撮ってみたいのよ。少しは師匠の役に立ちなさいっ」

「ヤダァ。ねえクリス! 師匠のことぶん殴ってやって!」


 いえいえ。わたしの拳は邪な人間を殴るためにあるので。


「ヘルト、あんた似合ってるわよ」

「うれしくない!」

「だって、クリスちゃんと並べる女なんて、あんたくらいなのよ。他の子はスッキリしすぎて、クリスちゃんの魅力が引き立たないの。みんな、あの神々しさに負けちゃうのよ。あんたくらいが、クリスちゃんのパートナーとしてはちょうどいいの」


 わたしは、自分を神々しいと思ったことは一度もありません。

 わたしほど欲にまみれた女は、いないでしょう。


「そこまでいうなら」


 ヘルトさんは、渋々承諾します。


 ただ流れからして、ヘルトさんがわたしのパートナーを務めるようですね。


「ということは、わたしもこの格好をするわけですね?」

「もちろんよ。もっとキュートな衣装をご用意しているわ!」


 わたしに用意されたのは、純白のドレスでした。

 膝まで隠れたバルーンスカートに、チューリップを模したパフスリーブのトップス。足は上げ底のローファーですね。頭に、シスター用のキャップを被ります。手には、先端に十字架を携えた杖を持たされました。


「魔法少女、シスター・クリスというべきでしょうか?」

「そうよ! 想像以上にファンタスティックだわ、クリスちゃんっ!」


 子爵がノリノリですね。シャッター音が、まったく鳴り止みません。


「師匠、やっぱりクリス一人の方が写真映えが違うって。あたしでも相手にならないわよ」


 ヘルトさんが、カメラから逃げようとしました。


「本来ならヘルト、あんたが悪の手先でもよかったのよ。でも、あんたの気高い姿も見てみたかったの」

「へ、へえ」


 もう呆れてますよ、ヘルトさんは。


「そこでアタシは考えたの! 考えを巡らせたの! あんたは悪堕ちヒロインとして映えるわ! 敵組織に捕らえられて絶望を植え付けられ、悪者の手先になってしまうの!」

「ちょっと何を言っているのかわからないわ」


 わたしもですよ。


「だったらなおさら、クリスの方が堕ちヒロインとしては最適じゃない?」

「クリスちゃんを籠絡できるものなんて、この世に存在しないわ!」

「いっぱいあるわよ! それこそ食べ物とか!」


 さすがパーティメンバーですね。よくご存知で。


 ハロウィンでわたしは見事に悪堕ちしましたよ。それはもう快適でした。あの罪は、いい意味で忘れられませんね。


 結局、ヘルトさんは黒いドレスに着替えてきました。口も紫に染めて、結構バリバリに被写体となっています。案外、写真はキライじゃないのかも。


「ありがとう、クリスちゃん、ヘルト。いい写真が撮れたわ!」

「どういたしまして。ささ、一杯やって帰りましょう」


 バスローブ姿のまま、ヘルトさんはワインを煽ります。


 ですが、わたしはまだやるべきことが残っていました。ごちそうをいただかないと、帰れません。


「ま、待ちなさいよあんた。ヘルトの分もちゃんとあるから安心なさい」


 子爵が、メイドさんを呼び出します。


「お待たせいたしました。じゃがいもと鶏肉のクリームシチューです」


 ああもう、メニュー名だけでもだけでおいしそうですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る