温泉でアイスは、罪の味

 はあ、生き返ります。


 わたしたちは、温泉でくつろいでいました。

 露天の岩風呂です。

 夜空を見上げると、月明かりがありますよ。わずかに、雪がちらついていますね。


「ふいー。いい湯だなぁ」


 ソナエさんも、お盆にトックリとおチョコを乗せて、雪見酒をしています。


「本当ですね。ひと仕事終えた後のお風呂は、最高です」


 わたしはアンデッドではありませんが、「生き返る」という表現はこういう状態をいうのでしょう。


「むう。せっかくのポーリーヌさんの晴れ姿ですのに」


 ひとり、ふてくされている人がいますが。


「追い出されてしまいましたわ」

「しょうがないでしょう、姫。あれだけ騒がれては、監督のご迷惑になります」


 侍女の方が、ウル王女を慰めます。


「あのさ王女さんよぉ、そちらの方は?」


 そっか、ソナエさんはこの女性を知らないんでしたっけ。


「わたくしの侍女で、カロリーネといいます」

「『馬使いのカロリーネ』です。以後、お見知りおきを」


 灰色のショートカットをした長身の女性が、ソナエさんにあいさつをします。


「あなたはご存知でしょ? クリスさん」

「はい。同じクラスでしたから」


 遠足で王女にお給仕していたのも、彼女でしたね。

 気になるのが、学生当時と顔が変わっていないところでしょうか。


「えっと、御者さんのお孫さんなんですよね?」

「はい。先日も祖父がお暇をいただきまして、共に焼き肉を。シスター、その節はありがとうございます」

「いえいえ! ご満足いただけたならなによりですよ」


 お礼なんて、言われちゃいましたよ。


「は~あ、熱いですね」


 一旦、お湯から上がります。身体でも洗っていましょうかね?


「あたしもちょっと夜風に当たるか、よいしょっと」


 ソナエさんも、岩風呂から上がりました。


「いいもんだなぁ。こうしてのんびりしているのも」

「明日の朝には、帰らないといけませんが」


 身体を洗いながら、二人で語り合います。


「背中を流そうか?」

「いいですか? では、遠慮なくお願いしちゃいます。あとで交代しますね」


 こうして、友人同士で背中を流し合うのはいいものですね。


「ナギナタ、役に立たずに済みそうですね」

「だな。役立てるとしても、山猿を追っ払うくらいだろう」


 交代して、今度はわたしがソナエさんを洗います。


「ん? 二人の姿がねえな?」


 温泉の方を見ると、たしかに二人がいません。どこへ行ったのでしょう?


「まさか、あたしらの目を盗んで、また女優を見に行ったんじゃ?」

「ありえませんよ、それは」


 夕飯前に、撮影も終わっているらしいですから。


 散々カニを食べたわたしたちは、さすがに夕食を遠慮しています。


「みなさん、温泉アイスなんていかがでしょう?」


 浴衣に着替えたウル王女とカロリーネさんが、ソフトクリームを用意してくれました。

 ワッフルコーンに乗っています。


「どこで準備したんです?」

「そこの売店で、買いましたの」


 王女が自分とわたしの分を、カロリーヌさんが片方をソナエさんに渡しました。


「え? 大丈夫なんですか?」

「もちろん。氷魔法を使っていますから」


 よく見ると、王女が手の平に冷却の魔法を施していますね。


 なるほど、その手がありましたか。


「いただきます」


 せっかくですし、熱い温泉の中でアイスを食べましょう。

 物を冷やす魔法なら、わたしにも扱えますし。


 ああ、罪深うまい……。


 こんな背徳的なシチュエーションで食べるアイスの、なんたる業の深さですよ。


 アイスも甘くて冷たくて、でも身体は温まるという。


 全身が困っています。こんなぜいたく、許されるのでしょうか?


 最後の最後で、こんな罪が待っていようとは。


 これ、おうちでもできますかね?


「いいね。熱いときもアレば冷たいときもある。まるでさっきの先輩女優みたいじゃないか」

「そうですね。ポーリーヌさんはきっと、味のある女優さんになることでしょう」

 


       (カニ編 完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る