年越しソバは、罪の味 ~年末年始 特別編~

年越しソバは、罪の味

「こんばんはー」

「おお、シスター。いらっしゃい」


 今日は、ソナエさんに呼ばれて神社で年を越します。


「おじゃまいたしますわ」


 ウル王女も、招待されていました。


 御者さんは、明日の朝にお迎えに上がるするそうです。


 わたしたちを招き入れた後、ソナエさんは台所に戻っていきました。この寒いのに半袖ですよ。


 台所では、おソバが茹で上がっていました。


「ソナエさん。今日のお夕飯は、おソバですか?」

「ああ、故郷の風習でさあ」


 その長さから、東洋でソバは「長寿を祈る縁起のいい料理」として食べられていたとか。


「今日はあんたらが来るってんで、腕によりをかけた。味は保証できないが、満腹に慣れるようにたくさん作った。食べてくれるかい?」

「もちろんです」


 我々の中で女子力が最も高い、ソナエさんが作るのです。きっとおいしいはずです。


「よせよ。からかうな。素人のマネゴトだから。そばセットを譲ってもらって見よう見マネで作ったに過ぎん」

「ですがあなたは、親子丼を出すドワーフのお店へ通い詰めているそうではありませんか」

「せっかくだし、おいしいものを出したいじゃん? ソバも、その家から譲ってもらったんだ」


 麺を器に移した後、ソナエさんは温めていたひょうたんを開けました。おしょう油の香りがします。


「それが、おダシですか?」

「ああ。澄んだツユだが、味は濃いぜ。ほら」


 さすがに配膳は、手伝います。


 全員に、おソバが行き渡りました。残ったソバは、ざるそばになっています。


 薬味としてネギと摺りショウガが、それぞれ別のお茶碗にコンモリと盛られていました。


「悪い。足りなくなったら、つけ麺で食ってくれ」


 詫びる必要なんて、ありません。作っていただけただけでうれしいです。


「ありがとうございます。では、いただきますね」


 器に薬味を乗せて、ちゅるるっとすすりました。


「ああ、染みます。罪深うまい」


 思わず、ため息が漏れます。


 おツユが透き通っているので、てっきり薄めなのかなと思いました。

 いざ飲んでみると、なんともカチッと引き締まった味わいです。


 こんなおいしいものを、東洋の方は好んで食べてらっしゃるのですね?


おいしいですわ、ソナエさん。ウチのスパでもおソバは出していますが、ここまで透き通ったおダシでは出していませんの」

「地域によって、濃さが違うよな。あれはあれで、『ソバを食った!』って感じがして楽しめる。優劣なんてないさ」

「ありがとうございますわ。励みになりますわ」


 そうそう、と、ウル王女がお酒の瓶をソナエさんに渡します。


「お招きのお礼ですわ。クリスさんとお金を出し合いましたの。わたくしはいいと言いましたのに」


 別に構いません。むしろ、わたしにはこういったセンスは皆無なので、お金しか出せず。


「おお、サンキュ! いい酒じゃねえか!」


 さっそく、ソナエさんが栓を開けます。湯呑にドボドボと入れて、グイッと煽りました。


「っあー。厄払ヤバい! やっぱソバには酒だよなぁ!」


 あっという間に、湯呑のお酒がなくなりました。よっぽどおいしかったのでしょう。


「下戸同士で選んだお酒ですから、お口に合いますかどうか」

「っかーっ! ありがてええ! あたしのために一生懸命選んでくれた酒に、マズイもんなんてねえ!」


 うれしいです。こんなにも喜んでくれるなんて。


「わたしはコロッケですが。おソバに合いますでしょうか?」

「合う合う! 最高の組み合わせだぜ! これも厄払い!」


 コロッケをムシャムシャと食べながら、ソナエさんはまたお酒をグッと飲みます。


「あー。幸せだな。来年もまたがんばれる」

「大げさですよ、ソナエさ……あ」


 わたしは、外を眺めました。


「すごい雪が降ってきましたよ!」

「うわ。これは積もるね」


 これは、帰れますでしょうか?


「明日の朝に帰る予定でしたが……ムリそうですわね」

「まあ、いいじゃん。その代わり、明日、ウチの手伝いをしてくれるか?」

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