真犯人
「とうとう、真相を突き止めましたわ!」
王女の隣に侍女が、一人の中年男性を縛り上げていました。
「あ、この男性です。私の後をつけていたのは!」
ポーリーヌさんが、男性を指で差します。
「ええ、ポーリーヌさん。たしかに彼は、あなたを尾行していたと言いました」
ウル王女も、うなずきました。
「わたくしは、ポーリーヌさんの証言から、王国の情報網を駆使して必死で彼を探し当てました。手紙の筆跡も、彼のジです」
王女の外せない用事とは、どうもこのことだったそうですね。
「しかもあなた、エキストラ俳優さんだそうですね?」
「え!?」
「ここの食レポをする、リポーター役だったそうじゃないですか!」
ああ、この人だったんですか。
間に合ったのなら、カニを残しておくべきでしたね。
でも、罪を犯したなら出演自体もムリでしょう。
「王女、それは本当ですか? そんなの、台本にはどこにも!」
ポーリーヌさんが台本を確認していると、監督が「あー」と声を出します。
「俳優事務所から、急に差し替えの依頼電話はあったよ。彼に決まったんだ」
二人のうち一人だけだったのと、面倒なので、台本はそのままにしていたそうでした。
あとで書き直す予定だったとか。
ところが、汽車が止まってしまいました。
立ち往生をしているところを、ウル王女が捕まえたそうです。
どうやら、ストーカー犯はこの人物で決まりでしょうか?
「しかし、聞いたところによると、この方はあなたのファンではありませんでした」
「そうだったんですか?」
「この人は、ある人物に頼まれただけだそうです」
ウル王女は、男性に歩み寄ります。
「さあ、あなたが誰に依頼されたのか、おっしゃい!」
男性の腕が、上がりました。
その指が、女将役の女優さんに向けられます。
女将が、顔を背けました。
まあ、なんともドラマのような展開です。
まさか、慕っていた先輩女優さんが、真犯人だったとは。
「そんな! ジャネットさんが犯人だったなんて!」
「魔が差したのよ!」
女将役の女優、ジャネットさんが顔をしかめました。
ポーリーヌさんを睨みつけながら。
「新進気鋭のポーリーヌちゃんが、どんどん出世していって、私なんてあっという間に追い越して主演を勝ち取った。このお話だって、元々は私が主役だったのに!」
声を荒げて、ジャネットさんは文句を言います。
元々この作品は、世界のクッタノらしい文学系の作品が下敷きだったとか。
熟年の女将が、弟子となった我が娘との交流で少しずつ自分を取り戻していく作品でした。
しかし、エンタメ性と話題性が欲しくて、若い女優さんを主役にしたほうがよいのでは、とスポンサーから打診があったそうです。
「映画監督って、そんなに食べられない世界なのですか?」
予算がない、とおっしゃっていましたからね。
「いや。芸術だけじゃ食えないと言うか、他のスタッフを食わせられない。苦肉の策だったんだ」
難しい世界です。
自分のエゴを貫けば角が立ち、人にすり寄れば要求に応じざるを得ません。
自分の思い通りの表現ができない苦しみは、わたしにはわかりかねます。
大変さだけは、わかっているつもりでした。
しかし、闇がこれほどまでに深いとは。
「私は、女優をやめます」
「ジャネットさん!」
「だって、あなたにひどいことをした! いくらあなたに嫉妬していたとはいえ、なんてことを」
涙を流しながら、ジャネットさんは顔を覆います。
ポーリーヌさんが、わたしの肩に手をかけました。小声で、わたしにささやきます。
「……わかりました。そうお伝えします」
わたしは、ジャネットさんにポーリーヌさんからの伝言を伝えることにしました。
「顔を上げてください、ジャネットさん。あなたに罪はありません」
「なんですって!?」
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