大食い対決、終了!

 みなさんのグラタンにも、ベーコンが。

 そちらは、ちゃんと薄く切り分けられていますけど。


 わたしの分は、ほぼカットされていません。

 もはや、マンガ肉みたいになってます。

 いっそ、噛みちぎりますね。ガシガシっと。


「ワイルドですね。こんな人、ドラゴンでもなかなかいませんよ」


 グラタンパスタを堪能しながら、ドレミーさんが呆れていました。


「この方は、特別ですわ。料理のためなら、魔王とも交渉するでしょう」

「眼の前にいるのは、ホンモノみてえだしな」


 まあ、こんな国王が相手では、ごまかしは効かないでしょう。

 なので、「魔王と会食する」とは告げていました。


 一切小細工無しで登場する魔王も魔王ですが、兵を一人も連れてこなかった国王も大概です。


「魔王もすさまじいですが、シスターの分がもう……」


 ドレミーさんが、驚愕の表情を浮かべています。


 わたしの土鍋は、もう底が見え始めていました。


「ルドマン侯爵、ちょっとよろしいでしょうか?」

「なんだね、クリス嬢。降参かな?」


「パンをいただけますか?」


「まだ、召し上がると?」


 侯爵の質問に、わたしは笑顔でうなずきます。


 だって、グラタンにはパンでしょう。グラタンですよ?


「わかった。焼いてくるから少々待つように」

「あ、わたくしも!」


 ウル王女が手を上げました。続いて国王も。


 結局、全員がパンを求めます。


「あいわかったから。待っておれ」


 ため息をつきながら、侯爵はパンを焼き始めました。


 その間に、わたしはパスタをモリモリ食べ進めます。


「麺終了! クリスさん、麺終了です。マジで?」


 信じられないといった顔で、ドレミーさんが口をあんぐりとしました。


 あとは、このオコゲですよ。スプーンで、ガシガシと発掘します。

 意地汚いですが、これもグラタンの醍醐味です。

 グラタンにオコゲはつきものですから。


 ああ、素晴らしい。このグラタンでもっとも香ばしく、味が濃いです。

 おっと、パンが焼けましたよ。 


「ささ、もうこの際だ。いくらでも食べるといい」

「わあ。ありがとうございます。いただきますね」


 パンをちぎって、ホワイトソースをすくい取ります。


 まさしく、罪深うまい。


 グラタンのシメと言ったら、もう間違いありません。


 エビのエキスも、きのこの旨味も全部凝縮されたソースです。

 パンでお迎えしなければ、バチが当たりますよ!

 チーズのとろみもあって、これはまたチーズフォンデュの亜流とも言えました。

 こんなぜいたくな食べ方って、他にあるでしょうか?


 いやあ、おいしかったです。

 こういう催しなら、毎回でも構わないですね。


「あれだけあった土鍋のグラタンが、何も残っていません。人間じゃない」

「ええ。シスター・クリスの胃袋を形容する言葉があるなら、魔界です」


 口を拭きながら、ウル王女がドレミーさんに語ります。


「まさか、吾輩が完敗するとはな」

「いえいえ。見事なお手前でした。同じものを作れと言われたら、わたしの完全敗北でしょう」


 わたしは食べるのが専門であり、食べるしか能がありません。

 作る方には、ただただ感謝ですよ。


「よもや、すべて片付けられてしまったな。まったく恐れ入った。先代との勝負を反省し、土鍋で挑んだのだが、それすら看破されてしまうとは」


 侯爵から、敗北宣言が出ました。


「となると、ドレミーさんは自由の身で?」

「結構だ。彼女のことはあきらめよう」


 よかったです。侯爵の変な性癖に悩まされることはなくなりました。


「楽しい食事会でした。侯爵さま、ありがとうございます」

「うむ。吾輩も、この場に招いていただいたことを感謝する、シスター・クリス」


「して、侯爵さま」


 わたしは頭を切り替えて、侯爵に問いかけました。


「なんだね?」


「デザートは、何を?」


 え、まだ食うの? という顔になりましたね、侯爵。

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