マシュマロのチョコフォンデュは、罪の味

「いやはや。失礼した。コホン。先代クレイマー辺境伯は、男だったのでな、甘味は所望しなかったのだ。肉と米はたらふく求めた。酒もやらん男だった」


 オールドマン侯爵がワインを飲みながら、語ります。


 ウチは先代の頃から、下戸一家ですからね。


「さっそく用意しよう。チョコフォンデュでよろしいかな?」

「ぜひ!」


 溶けたチョコに何かをつけて食べるとか、なんという背徳感激増しな料理なのでしょう! これをデザートとしていただけるとは。


「おまたせした。チョコフォンデュである」

「わああ」


 わたしは、ため息が漏れます。


 これが、チョコフォンデュですか。

 香ばしさが、遠くからでも漂ってきますね。すばらしいです。


「では、いただきますね」


 マシュマロを、溶けたチョコレートにくぐらせました。

 コレを口の中へ。


 ああもう罪深うまい。


 しっとり甘いマシュマロに、ノンシュガーのチョコが合いますね。

 あえて苦味を利かせたなんて、さすがです。


 マシュマロにチョコを付けて食べるだけなのに、どうしてこうも罪を感じるのでしょう。

 なんたるぜいたくな食べ方ですか。


 他のみなさんも、マシュマロを串に刺して食べています。


「クッキーが最高ですわ」

「塩味のスナックが、酒に合うぞ」


 王女はクッキーを、国王やカレーラス子爵はバター味のスナックをチョコにひたしていました。

 お酒もスパークリング系から、ウイスキーに代わっていますね。


「ホントですね。これも罪深うまい」


 ほろ苦い風味が、なんとも大人な味です。

 お酒を飲む方なら、こちらの方がお好きかも。


「ウル王女、わたしは今、どの富裕層よりも楽しく過ごせていますよ」

「ですわね。シンプルな料理ですのに、こんなにもあったかい気持ちになるなんて」


 みんな、チョコフォンデュが気に入ったようです。


「アタシ甘いの苦手だけど、これはイケルわ」

「あたしもよ。こういうデザートなら最高」


 子爵とヘルトさんの師弟コンビも、満足げですね。 


「先代は、こういうことはなさらなかったので?」

「クレイマーは、孤独を愛する男だった。一人飯が性に合っていたらしい。こういった賑わいは苦手だったように思う」


 これを食べなかったなんて、先代はもったいないことをしましたね。

 子孫であるわたしが、じっくり堪能させていただきましょう。


 わたしは美食家ではありません。全部いっぱいが好きですね。

 好きな人たちに囲まれて、好きな料理をいただく。

 これは、最高のぜいたくですよ。


 身も心も、お腹も満たされていました。


「いやあ、悔しいね。どれもこれもうまい。ルーク・オールドマン」


 二枚目のキノコピザを平らげて、魔王ドローレスはつぶやきます。

 苦々しい顔ながら、食べる勢いは止まりません。


「料理の腕だけは、負けぬよ。ドローレス・フィッシュバーン」


 二人の魔王が、誰からも聞こえないように小声で語り合います。


「あの、すいません。僕のせいでこんなことに。あなたの侍女にもならず」


 ドレミーさんが、侯爵に頭を下げました。

 思いの外、大ごとになって、責任を感じたのでしょう。


「構わぬ。おかげでドローレスと接触する機会を得た。たまには敵対者と語り合うのもいいものだ。そうは思わぬか、ドローレス?」


 侯爵がワインを飲みながら、楽しげにドローレスへ語りかけました。


「いいや。あたしはあんたの顔は見たくないね」


 きっぱりした態度で、ドローレスは言い放ちます。


「けど、デリバリーでいいなら食ってあげるよ。ちょうどいいお嬢ちゃんもいることだしさ」


 ドローレスが、侯爵を挑発しました。ゴロンさんのことでしょう。


「では、再び棺桶に入って、貴公の屋敷へお邪魔しよう」

「いや来んな」


 そう言いますが、ドローレス。


 あなたがもっている三枚目のピザはなんですか?


 わたしもいただきますね。

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