グラタンパスタは、罪の味 ~別にコレを全部食べてしまっても、構わないのでしょう?~

 侯爵は言いました。「八キロ全部、一人で食べていい」と。


 土鍋の中はホワイトソースの海です。

 泡立っているソースの上で、パスタが踊っていました。

 程よく焦げたチーズの島が、また官能的な香りを放っていますね。


「こう見ると、圧巻ですね」


 ドレミーさんが、心配そうにわたしを見つめます。


「いやあ。このグラタン、とってもおいしそうですよ。ドレミーさん」


 眼前にある夢のような光景に、わたしは胸が踊りっぱなしでした。


「おいしそうなんて次元じゃないですよ。食べられるんですか?」

「わたしが負けるとでも?」


 安心させようと言ってのけたのですが、かえって不安にさせちゃいましたかね。


「ドレミーさんとやら、事情はわかりかねますが、このシスタークリスを信用なさって結構ですわ」


 ウル王女が、ドレミーさんの隣で肩に手をかけました。


「ああ、はい。疑っているわけでは。しかし、わたしのせいで体調を崩されては」

「こんな豪華なお料理、おあずけを食らうほうが彼女にとって毒ですわ!」


 オホホ、とウル王女がドレミーさんに笑いかけます。


「いいんですね、一人で食べてしまっても?」

「そう申しておる。怖気づいたか?」


 まさか。


「別にコレを全部食べてしまっても、構わないのでしょう?」


 フォークとスプーンを手に、わたしは臨戦態勢に入りました。


「大した自信だ。よろしい。ただしヤケドを防止する為、早食いは厳禁だ。時間制限も設けない。満腹になるまで、存分に食すがよい」


 チートデイいっぱいは、食べ続けていても構わないようですね。


「把握しました。みなさん、ではいただきましょう」


 全員が納得した中、食事が始まります。


 さて、どう攻めましょうか?

 まあ、悩んでいても仕方ありませんね。正攻法で。


 スプーンとフォークで、パスタを巻いちゃいましょう。

 一息でパクッと。


 激しく……罪深うまい!


 これは、味わっちゃいますね。いやあ、見事です。


 味の濃いホワイトソースがパスタに絡んで、たまりません。

 熱いので、すすれないのが悔しいくらいです。

 焦げたチーズがソースと合わさって、よりおいしさが広がっていきました。


 中身は、キノコエビグラタンパスタですね。

 キノコはマッシュルームの他に、シメジも入っています。

 小エビが顔をのぞかせていますよ。


 ピザとほとんど同じ組み合わせなのに、何一つ飽きが来ません。

 調理法が違うだけで、食材ってこうまで味が変わりますか。


 料理とは、なんと複雑なのでしょう。わたしには想像もできません。


 これが、侯爵の実力なのですか。

 アンデッドで引きこもらせるには、もったいないですね。


「本当に、無料なんですか?」


 なんだか、申し訳ない気持ちになります。


「構わんよ。人類との戦で得た財産を、世に還元しているだけだからな」


 歴戦の魔王の金銭感覚は、ワケがわかりません。

 なんの野心も持たず、ただ女性を籠絡したい一心で。

「モテたいからバンド組みました」ってお話は、よく聞きますけれど。


「魔王とか関係なく、うめえな」

「ですわね。おいしいですわ」


 国王父娘も、味わって食べていました。


「モテたい一心だけで、ここまでのクオリティに?」

「暇だったのでな。時間がアレば作っていた」


 東洋・西洋・はたまたエキゾチック、なんでもござれだそうで。


「しかし、あなたはデイウォーカーですよね? どうしてゴロンさんに運んでもらったのです?」


 真祖クラスになると、吸血鬼特有の弱点はほぼないと聞きましたが。

 一応、執事さんもデイウォーカーですから、運ぶのを手伝っていましたよね?


「消滅はせぬが、弱体化はするのだ。諸君らも、雨が降ると体調を崩すだろう? それと同じことが、吾輩にも起きるのだ」


 めんどくさい体質ですねえ。


「おっと、何か出てきましたね」


 現れたのは、厚切りベーコンです。角煮サイズの。

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