キノコピザは、罪の味

「お待たせいたしました。秋季限定のキノコピザと、シーフードピザでございます」


 片方は、キノコがたっぷり乗ったピザです。

 おしょう油の香りがしますね。


 もう一つのピザには、イカやホタテ、アサリなどが乗っていますよ。


 おや?

 わたしだけ、普通サイズまるまる一枚お皿に乗っていますね。

 それが二つあります。


 他の方は、男性はミニサイズ二枚、女性は二分の一ずつです。


 見間違えでしょうかね?


「いいんですか? シェアしなくても」

「クリス殿は健啖家だと、ローザ氏からは聞いているが?」


 なら、いいでしょう。


 このあと土鍋パスタもあるんですよね。楽しみです。


「特別感などは感じないかもしれないが、味は確かだ。冷めないうちにどうぞ」

「そうですね。では、いただきましょう」


 一同が礼をして、食事の時間となりました。


「うわああ。チーズが伸びますね!」


 ゴロンさんが、コドモのようにハシャイでいます。


「ふわあ。小エビが生地に練られていますよ」


 ドレミーさんも、料理の中に好物を見つけて、楽しそうにしていました。


 お味の方は……。



 もう、文句なしに罪深うまい!



 お店で食べるピザとは、また生地の柔らかさや味の深みなどが違いますね。


 サクラエビが入っているから、キノコなのに磯の風味がします。


 魚介を使っているのに、キノコからもダシが出ていて、山菜のさっぱりさがプラスされていました。


 食材とソースが、複雑に絡み合っています。

 なのに、混乱していません。

 こんな組み合わせだと、普通は混戦してケンカするはずなのに。


 その秘訣は、チーズでしょう。


 このチーズが、すべてを優しく包み込んでいます。

 チーズがあってこそ、切っても切れない関係を保っていました。

 チーズのおかげで、何もかも許せます。


「唐辛子を入れると、また違った風味になるわね? 


 シェフが作ると、ピザってこうなるんですね。


「意外っすね。もっとソテーとか、ビーフステーキなどを想像したんすが」


 ハシオさんの意見は、もっともです。


 わたしも、高級素材を使った料理が出るのかと。


「もちろん、そういう料理も提供する。そういう料理がほしい奴らにだけは、だが」

「そうなんすか?」

「うむ。【影分身】の術で、吾輩の影が別の厨房で作って提供しておる」


 あ、この人、影を操れるんでした。


「怪しまれませんか?」

「厨房をいちいち注視するようなホテルマンは、おらぬ」


 言われてみれば、そうですね。 


「リーズナブルな料理はもちろん、高級食材を使用した料理も出す。しかし、高い料理のみを欲しがる者には提供せぬ」

「と、いいますと?」

「奴らは味を求めていない。高級感を味わいたいだけだ」


 たしかに。

「こういう店で食べたぞ」と自慢がしたいだけの人は、確実にいますね。


「高級な雰囲気を求めて、高価な店に行く風習はたしかにある。否定はせぬ。しかし、本質を知らぬものには提供したくない」

「わかります」

「その点、みなさんは信頼できる方々だと、ローザ氏から聞いている」


 なるほど。


「親しい方々が集まるというのでな、切り分けられるものをご用意した。お口に合いましたかな、国王?」

「いやはや、恐れ入った。ありがとう。大満足である」

「お褒めに預かり、光栄に思いますぞ」


 魔王が、国王に頭を下げましたよ。

 自分の方が数倍長生きして、地位も高いのに。


 まあ、それでもエラそうですが。


「ではグラタンパスタの方もできあがったので、ぜひに」


 オールドマン氏が手を叩くと、執事さんが土鍋をワゴンに乗せてきました。


 執事さんが、グラタンパスタをみなさんに切り分けます。


「えー。ルドマン卿、シェアできる料理をご用意なさったんですよね?」

「いかにも」

「どうしてわたしだけ、スペシャルサイズなのでしょう?」


 わたしの分だけ、八キロの土鍋がまるまるありますよ。


「申したであろう? チャレンジメニューだと」

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