天ぷら盛り合わせは、罪の味

 気を取り直して、天ぷらをいただきましょう。


 ドラゴンを追い払ったお礼として、無料でいただけるそうです。

 これはありがたい。


 アジ、イカ、エビなどの魚介と、新鮮なお野菜もありますよ。

 おナスがおいしそうです。


「それにしても」


 ヘンネフェルト国王が、わたしたちを見てアゴに手を当てました。


「どうしました?」

「イカにエビ、ナスか。うまそうだ」


 どうやら、わたしたちのドレスのカラーを見て、天ぷらを連想してしまったみたいです。


「娘を天ぷらに見立てるとか、いやらしい」


 ウル王女が憤慨しました。


「いや、なにも変な意味じゃねえよ! うまそうだなって話だ!」


 普段は超然とした態度を取る王も、娘の前ではタジタジですね。 


「では、冷めないうちにいただきましょう」

「そうっすね」


 全員すぐに箸を取り、天つゆに大根おろしを溶かします。

 乾杯なんて野暮なことは、致しません。


 国王は、エールを手にとっていましたが。


 もう食欲のほうが勝っていました。

 遠慮せずにいただいちゃいます。


 まずは、エビから口へ。


「おおおお、罪深うまい」


 プリプリのエビさんです。

 しばらく会話ができませんね、これは。

 当分の間、この引き締まった身を噛み締めていたいです。

 それでいてこの甘味ですよ。

 塩気だけではない、極上の旨味が広がっていきました。


 ドラゴンを追い払って、正解でしたね。


 彼には、どのような珍味も「エサ」としか見えなかったでしょう。

 この深みは、ドラゴンの脳では処理しきれないでしょう。


 続いて、アジを。


 これまた罪深うまい!

 お魚のうまさが、油とともに溢れ出しました。

 この味わいはなんなのでしょう。

 ライスでお迎えしなくては。

 ああ、もう完璧です。

 白身の魚は、白い糖質と組み合わせねば。


 それにしても、ライスが少ないですねえ。

 高級料亭って、こんな感じなのでしょうか?

 ガッツリいきたいです!


 お次は、イカでしょう。


 はい、文句なしに罪深うまい。


 噛む度に、ミチミチと身のおいしさが引き立ちます。

 

 わたしはイカに見立てられているようですが、ここまでのうまみなんて出ますかね?

 比較されるのもおこがましいですよ。

 料理ってのは、黙って目の前に出されたものをじっくりと味わってこそでしょう。

 それぞれによさがあるのです。


 おっと、思考が止まっていました。

 極上のパンチを受けたような衝撃でしたね。

 最高でした。


 えっと、ではおナスを。


「まあ、罪深うまい!」


 ジュワッときました。身から大量のオツユが吹き出しましたよ。

 こんなことってあるんですね。

 お野菜なのに、お魚やお米に負けない自己主張です。

 また、大根おろし入りの天つゆに合うこと。

 ライスが進んでしょうがありません。


 レンコンも、またいいですね。

 コリコリです。

 この噛みごたえもクセになりますよねぇ。


「お次は……この葉っぱはなんですか?」

「シソって言っていたな。東洋のサッパリした薬草らしい」


 なるほど。いただいてみましょう。


 ぬうおおお、サクサクで罪深うまい。


 こんなに薄っぺらいと、なんの味もしないと思いました。

 ところが、香りがおいしいのです!

 スッとする芳香が鼻へ抜けていき、ノドに謎の清涼感がひしめきました。

 こんな食材、初めてです。

 ワサビなる香辛料とも違う、独特の抜け感ですね。


 恐れ入りました。わたしは、まだまだ勉強が足りません。


「はああ、最高でした。ありがとうございます」


 わたしが礼を言うと、王がニヤリと笑います。


「フフン。まだ終わりじゃねえよ」


 なんですと?


「実は、わざと少なめにしていたんだ。実際、物足りねえだろ?」

「ええ。まだ入りますね」

「もうすぐ、メインが来るからよ」


 そうこうしているうちに、メインらしき料理が。


「うわあ! おソバですね!」


 現れたのは、人数分のお椀でした。


「うむ。メインディッシュの、かき揚げソバだ」

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