かき揚げソバは、罪なんてものじゃない
なんという背徳的な風景でしょう。
おソバでさえおいしいのに、かき揚げまで乗っているなんて。
玉ねぎ、ごぼう、三つ葉、にんじん、桜エビと、定番揃い踏みですね。
おソバのオツユは、実に澄んでいます。
「東洋でも、西の地方で作られるツユっすね」
ハシオさん、さすが博識ですね。
「ここのかき揚げソバはな、夜だけのメニューなんだ」
今は夜遅いので、出してもらえました。
これは、ラッキーでしたよ。しかも、ドラゴンを追い払ったので無料です。
では、いただきます。
やはり主役のかき揚げからですよね。
「おおお、
お見事です。
サクサクで、香ばしくて!
ボリューミーです。
もっと重たい感じがしたのですが、フワフワですよ。
ここでおソバをお迎え、と。これまた最高です。
オツユがあっさりな味付けで、かき揚げを包み込んでくれていますね。
見た目は薄味そうなのに、この存在感はお見事で。
おソバのうまみと、かき揚げのサクサクが合います。
「この店は、屋台のかき揚げソバから始まったらしい。それを我が先代が目をつけて、この料理屋を持たせたんだと」
もし我々がドラゴンを撃退できなかったら、桜エビが手に入らなかったのだとか。
「そうなんですね。感慨深いです」
創業以来、ずっと守られてきた味なのでしょう。
素晴らしいです。
わたしは今、おソバ屋さんの歴史を食べているのですね。
おや?
国王はかき揚げを半分だけ、ソバのオツユに漬け込んでいますね。
「こうやってふやかすのも、また格別なんだよ」
お酒を飲みながら、かき揚げがふやけるのを待っているようでした。
わたしも、王にならいましょう。
国のトップがうまいというのです。
期待を裏切らないはず。
もういいでしょう。これで、いただきます。
ほほ~。なるほど、こうなるんですね?
おソバと天ぷらが融合しています。
こうなってくると、もはや化学反応ですね。
おソバってすするものだと思っていました。
が、ここまでくるともうオツユは固形です。
天ぷらソバは、ムシャムシャと頬張るものなのですねぇ。
なんという七変化。ここまで楽しませてくださるとは。
「悔しいですが、
ウル王女も、楽しそうに食べていました。
「ごちそうさまでした。国王。本日はお招きありがとうございます」
「ん? デザートはいらないのか?」
「喜んでいただきましょう」
最後にいただいたのは、素揚げしたサツマイモです。
シロップと黒ごまで絡めていますね。
「うわああ。甘くて
ホクホクです。
冷めているのに、サツマイモの甘さがシロップに負けていません。
皮と、黒ごまの影響ですね。甘さを引き立てています。
「大学芋っていうんだが、由来はわからない。東洋の大学では昔、これを作って学徒が学費を捻出していたらしいぞ」
苦労なされていたのですね。
揚げ物で始まって、揚げ物で終わる。最後の夜でした。
「ホントに、今日はありがとうございました」
「お前さんなら、天丼って手もあったんだが」
天丼ならリーズナブルなので、よそのお店でも食べられます。
しかし、たまにはこういうお高いお店もいいでしょう。
「今日は父がご迷惑を」
ウル王女が、わたしに頭を下げてきました。
「とんでもありません、王女! ごちそうになりました!」
「そうっすよウルリーカ様。ごちっす」
わたしたちがお礼を返すと、ウル王女はホッとした顔になります。
「また、娘と遊んでもらえるか?」
「ちょ、お父様!?」
ウル王女が、国王の太ももを力いっぱいつねりました。
「んだよ、いいじゃねえか。仕事が忙しすぎてクリス嬢とあんまり会えないって言っていたのは、お前だろう?」
「どうしてバラしてしまいますの!? そういうところですわよ! だいたいお父様は……」
お説教が始まりましたね。
「退散しましょう」
「そうっすね」
(天ぷら盛り合わせ編 完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます