天ぷら屋さんでトラブル

 夕方になりました。

 わたしはクリーム色のお洋服で、食事の時間を待ちます。


 今日は、いつも以上に節制しました。

 お昼も軽めで済ませ、準備万端です。


 白いドレスで来てしまいましたが、よかったでしょうか。

 浮いてしまわないか心配です。


 お呼ばれしたのは、天ぷら屋さんではないですか。

 高そうなお店ですね。

 もっとジャンクっぽいお店でも全然構いませんのに。香りさえ、悪魔的ですね。


 隣には、ウル王女が。青紫のドレスで決めていました。


 ヘンネフェルト王は、先に入って手続きをしているそうです。


「ごめんなさいね、クリスさん」


 お食事が天ぷらだからでしょうか。

 おとなしめのお洋服で決めています。


「いえいえ。問題ありませんから」

「あのバカ親父、なにかといえばフレンに会いたがるものですから」


 わたしたちを呼んで、少しでも気を紛らわせようとしているのですね。


「エマさんはいい方なんですけれど、いい方すぎて」

「あぁ。おっしゃりたいことは、わかります」


 あの子なら、フレン呼んじゃうでしょう。

 ダメとわかっていても、連れてきてしまいます。


「なので、辛抱なさってください」

「わたしはおいしいものをいただけたら、それで満足ですので」

「そういう方で、助かりました。他の方だと、こうはいきませんの」


 で、本日は珍しいお客さんが。


「どもっす」


 なんと、ハシオさんです。

 オフショルダーの赤いドレスが、細身のボディに似合っていますね。


「ごきげんよう、ハースンシオン・オンティベロス王女」

「ああ、もう。堅苦しい名前は抜きっす。アタシのことは、いつも通りハシオでいいっすよ」


 手を胸の前でバタバタとさせながら、ハシオさんは慌てました。


「オンティベロス大臣のお嬢様なのに」

「小さい街の領主ってだけっすよ。そんなにすごくないっす」


 すっかり卑屈になって、ハシオさんが苦笑いを浮かべます。


「ですがあなたのお父様は、何度も父を助けてくださっていますわ」

「まあ、それで街をもらえたんすけどね」


 ここで、わたしは疑問を持ちます。


「まあ、ヘンネフェルトが国王として、他の方はどうなっているんでしたっけ?」

「オンティベロス閣下は、公爵ですわ。軍事で功績を上げられたので」


 わたしの父、クレイマー家は辺境伯ですね。


「メイドカフェを経営なさっているマルティン・オカシオ様が伯爵、その元部下のカメラマン、エスタバン・カレーラス様が、子爵ですわね」


 なるほど。

 とはいえ、貴族といっても、みんなそれぞれ力関係にこだわってはいないそうです。


「ハシオさんとウル王女に面識があったとは、思いませんでした」

「わたくしの武術指導者が、オンティベロス大臣でしたの」


 ほお、ハシオさんのお父様に鍛えられたと。


「クリスさんほどじゃないっすけど、家のオヤジもなかなかやるもんでして」


 戦場では「鉄壁のオンティベロス」として、名を馳せていたとか。


 とんでもないお方のようですね。


「それにしても、お腹がすきましたわね」

「はい」


 我々が話していると、ようやく王様が戻ってきました。


「いやいや、すまんすまん。トラブルがあってな」

「どうなさいましたの?」

「注文の品が、届かないらしいんだ」


 海鮮が運ばれる予定だったのですが、何かがあったそうで未だに来ていない様子だそうです。


「冒険者を雇って、様子を見に行ってもらっているそうだ」


 どうも、妙な気配がしますね。


「遅くなっても構わないなら、見に行ってきましょうか?」

「お嬢ちゃんが、か?」

「こう見えて、わたしだって冒険者なので」


 わたしは、【早着替え】の魔法で戦闘服に着替えました。


「王さまは、王女を守ってあげてほしいっす」


 隣で、ハシオさんが同じく早着替えをしています。腰に剣を携えて。


「ヘタな冒険者より、あんたらの方が信用できる。頼めるかい?」

「喜んで。では」


 正直言うと、お腹がすきすぎて頭にきているんですよね。

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