揚げパンは、罪の味

 わたしは、トレイとトングを用意しました。

 お惣菜のコロッケパンと、揚げパンを一つ、トレイに乗せます。


「こんな店、よく知っていたな?」


 不思議そうに、王様がわたしに聞いてきました。


「女性は色々と、各方面から情報が入ってくるのです」


 わたしの場合は、例のダイエット失敗主婦さんですが。


 本当は、イートインで食べられるチーズフォンデュセットをススメられました。

 が、ランチメニューなので今は食べられません。今は。

 業が深くなりすぎるかと思って、自粛しています。


 代わりに、このパン屋でわたしが惹かれたのは、揚げパンでした。

 素揚げしたコッペパンに、ザラメをまぶしたものです。


「目をキラキラさせているな。そんなにうめえのか?」

「はい。一度食べたら、やみつきになってしまいました」


 わたしの言葉を聞いて「俺も頼んでみるか」と、国王もトレイに揚げパンを乗せました。


 値段もお手頃で、懐具合も罪の深さもちょうどよいのです。


 国王は、なんか色々と買っていますね。あんパン、チョココロネ、カレーパン、焼きそばパンと、大量に買い込んでいます。


「あっ! コーンドッグがありましたね!」


 魚肉ソーセージに、トウモロコシの粉をまぶして揚げたものです。


 わたしも、コーンドッグを追加します。これ好きなんですよ。


「ホットコーヒーを一つ」


 レジでドリンクを頼んでから、イートインに向かいました。


「俺は、ホットカフェオレにしようかな」


 甘めのカフェを、国王は頼みます。


「こういう格好はいいな。誰も俺を国王と思っていない。店員も、気軽に話してくれる」

「変質者だと思われていますが?」

「萎縮されるよりはマシだ。ビビられたら街も歩けねえ」


 別の意味で恐れられていますけどね、あなたは。


「コーヒーです。どうぞ」


 店員さんが、ドリンクを運んできてくれました。

 わたしは、ミルクと少量のお砂糖を入れます。


 では、いただくとしましょう。


 祈りを捧げ、国王はあんパンを頬張りました。

 一口で、ほとんどなくなっているではありませんか。

 情緒も何もあったものではありません。もっと味わえばいいのに。


「うんめえ。これはコーヒーに合う」


 言いながら、国王は熱いカフェオレをノドへと流し込みました。


 まずは、お目当ての揚げパンを、はむ……。


 ああ。罪深うまい。


 カリッとして、ややザラメのお砂糖がいいですね。

 シャリシャリのお砂糖と、カリカリのコッペパンを同時に口へ運ぶと、絶妙な味わいと音で楽しませてくれます。

 これがまた、ほろ苦いコーヒーと合うのです。


「うんま! こいつはたしかに、お前さんがハマるのもわかるぜ」


 国王も、揚げたコッペパンに舌鼓を打ちます。


「チュロスみてえな硬い味かと思ったが、ふんわりしているんだな?」

「ああ、チュロスはチュロスでおいしいですよね」

「うむ。こいつも負けず劣らず、たまらんな」


 大きな口で、国王は豪快に揚げパンを口へ運びました。

 あっという間になくなりましたね。


 お次は、コーンドッグです。もぐ……。


 うーん、罪深うまい。たまりませんね。


 コーンドッグは、お祭りの屋台などで売られています。

 が、衣が分厚すぎたり柔らかすぎたりと当たりハズレが大きい食べ物ですね。

 しかし、この店は揚げ具合が最高です。

 特に……。


「やっぱ、コーン・ドッグは、食べ終わった後の芯にこびりついた硬い衣が最高だよな!」


 先に言われてしまいました。


 たしかに、これだけでコーヒー一杯飲めちゃいます。


「うめえ、このパン屋はどれも格別だぜ」


 もうすっかり、王のトレイには何もありません。

 全部食べちゃったみたいですね。


「でも意外でした。健康志向な方は、惣菜パンや菓子パンは避けると聞きましたから」


 国王はちょっとした健康オタク気味であると、お嬢さんであるウル王女から聞いていたもので。


「食うさ。俺はなんでも試すぜ」

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