厄介オタクな王様

「で、なんのご用ですか、ディートマル陛下?」


 国王ディートマル・ヘンネフェルトは、わたしに用事があってきたようです。


 民衆の前ではキリッとした紳士なのですが、プライベートだとこんな感じなのでした。


「今日はフレンがいねえっていうから、顔を見せに来た。相変わらず、丁寧な仕事ぶりだな」

「ありがとうございます。それで、今日は何かご用ですか?」


 仕事まで取られちゃいましたからね。なにかあったのでしょう。


「いやあ、またトレーニングの依頼をしたくてよぉ」 


 王様は、ハムのように太い腕を組みます。


「ああ、ハシオさんたちのですか?」

「そうそう。頼めるかい? 今度はガチでいいからよ」


 手加減無用ですか。いいでしょう。腕がなりますね。


「わかりました。で、いつごろにお邪魔をすれば?」

「今から頼めるかい?」


 まあ、なんとお急ぎの依頼でしょう。


「実は雇ったトレーナーがヘボでよお。使い物にならなかったんだ」


 ミュラーさんが相手をしたら、逃げていってしまったとか。


「そいつをクビにしたんだが、代わりがいなくてよ。頼めるかい?」

「お受けしましょう」


 わたしが言うと、国王が「ありがてえ!」と手を合わせました。


「ほんとは『俺が稽古をつけてやるぜ』って言ったんだがよぉ。みんなビビっちまって。まいったよまったく」

「いやダメでしょ」


 万が一国王にキズを付けて、咎められない人がどこにいますか?

 わたしだってイヤですよ。


 あとのザンゲ担当はエマに任せて、わたしは国王の用意した馬車に乗り込みました。


「あれ、国王は?」

「俺はちょっくらその辺を走ってくらあ! 今夜は酒の席なんだ。体重を落としておかないとな! ほいじゃあ頼むわ! ガーハハハ!」


 そう言って、ディートマル王は配下を引き連れてジョギングへ。


 まったくあの人は、相変わらずですねえ。


 二人の娘から、あの人はどう思われているかですって?

 ご想像のとおりです。

 


 わたしは騎士団の訓練場へ向かい、トレーニングを開始しました。


 外出できないと思っていたので、好都合です。

 これで、外で食べる口実ができました。

 ハッスルしすぎて、やりすぎてしまいましたが。


「よーし今日の鍛錬は終了だ。お疲れ。クリスの嬢ちゃんもありがとうな」

「いえいえ。こんな鍛錬でよければいつでも」

「いやあ、頼りにしているぜ」


 騎士団のハシオ副隊長共々シャワーを借りて、お夕飯です。


「ほんじゃあ、いつものラーメン屋に行くか!」

「それなんスけどね、ミュラーパイセン。今日はあそこ、やめたほうがいいっス」


 張り切った声でミュラーさんが言うと、ハシオさんが手をヒラヒラとさせました。


「なんでだ?」

「王様が……」

「んだよ。また、親睦会かよ! 今日はラーメンって気分だったのに!」


 話が見えてきません。


「どうかなさったので?」

「実は王様がな。最近ステフ嬢の店に入り浸っていてよお。めんどくせえんだよ」

「ミュラーさんにも絡んでくるんス。オイラでも知ってるラーメン情報とか、普通にドヤって語るんスよ。元々オイラたちが開拓した情報っスのに」


 ああ、いわゆる厄介オタクなわけですね。

 身分違いなために、指摘できないと。


 たしかに今日も、民衆相手に厄介豆腐オタクぶりを発揮されていましたよ。


「オイラも、騎士団を連れて別の店で飲もうってなったっス」


 いつもならミュラーさんを誘うハシオさんですが、今日は違うようです。


「んじゃ、オレは家族サービスでもするかな」


 ミュラーさんは、奥さんとお子さんと一緒にディナーにするそうで。いいですね。


 そうですか。だからハシオさんは。


 親の勝手な都合で、ハシオさんはミュラーさんと無理やりお見合いさせられました。

 それをミュラーさんが断ったんですよね。


「嬢ちゃんも来なよ」

「いえ。わたしは」

「いいんだ。今日はオレたちの結婚記念日なんだよ」

「だったら、なおさら」

「来てほしいんだ。オレたちを繋げたのは、あんたなんだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る