かやくごはんは、極上の罪

「その茶色いお米はなんですか?」

「ああ、これか? かやくごはんだ」

「どういうゴハンですか?」

「炊き込みご飯だな。具材と一緒に、メシを炊くんだよ」


 パエリアのようなものでしょうか?

 店でそういうのは食べたことはありますが。


 なんでも、山菜とおしょう油と一緒に炊いたゴハンだそうで。


 それにしても、茶色いです。


 これは神に愛されていますよ。


 茶色オブ茶色じゃないですか。

 美味しいに決まってます。


「一つどうだい? アタイも、おにぎりだけは物足りなくてさ」

「いいんですか? なら遠慮なく」


 わたしは秒で、おにぎりとショウガ焼きをシェアしました。


「おおおお、これは厄払ヤバい!」


 もちろんおいしいでしょう。

 わたしが厳選したお店で作ってもらった、最高級品です。

 甘辛く作ってあるのがまたご飯に合うこと。


 喜んでもらえてなによりです。


 ソナエさんも、白米のおにぎりを食べながら、再度ショウガ焼きに箸をつけました。


「止まらねえ!」

「遠慮なさらないでください」

「すまねえ。アタイのかやくごはんのおにぎりも食え」

「いただきます」


 ふおおおおおおっ!


 これは……罪深うまい!


 信じられません。

 味付けは、おしょう油だけのはず。

 なのに山菜の深みが口全体に広がっていきました。


「なるほど、鶏肉ですね!」


 鶏がダシになって、アクセントを生んでるようですね。


「モモ肉に焦げ目を漬けるのが、ポイントさ」

「職人芸ですね」


 ゴハンもベチャッとしていなくて、ふっくらです。

 おコゲがアクセントとなって、また素晴らしい。


 完成された茶色ですね。


「これだけ具だくさんなのに、おにぎりとしての形を保てるなんて」

「もち米を一割、混ぜたんだ」

「職人芸ですね」

「大げさだって」


 これはもう、ライスなのに立派なオカズじゃないですか?

 ライスなのに、オカズとは。

 オカズいらずで、メシが罪深うまい。

 

 こんな咎人めいた料理が、存在していたとは。


「お漬物も、いただいても」


 見た目はタクアンなのですが、白いです。


「遠慮すんなって」

「では……こちらも最高です!」


 甘辛いお漬物です。

 タクアンはもっと塩気が強いですが、やや甘みが強いですね。

 これは、ゴハンが進みますよ。


「なんですか、このタクアンは?」

「コイツは、『べったら漬け』だ」


 初めて聞きました。


「タクアンはヌカに漬けるんだが、べったら漬けは砂糖とこうじで漬けるんだよ。だから甘い。保存性はないが、食感がたまんねえんだよ」

「これは珍味ですね」


 食事が終わって、おやつも一緒に食べることにします。


 ソナエさんが手にしたのは、お盆くらいある大きな平たいお菓子です。

 それもまた茶色くて、驚きました。


「おやつまで茶色い!?」


 東洋はもう、こんな領域にまで足を踏み入れていたんですね。

 時代の速さを感じます。


「ああ、せんべいを見るのは初めてか」


 ソナエさんが、「せんべい」なるお菓子をヒラヒラと弄びました。


「せんべいとは?」

「東洋のポピュラーな焼き菓子だよ。ほら」


 円形のお盆型お菓子を、ソナエさんはためらいなくバキッと二等分します。


 わたしに、大きい方をくれました。


「いただきます……んほお!」



 これは、茶色とうとい。



 もち米を焼いて、お醤油を垂らしてあります。

 たったこれだけの味付け。

 なのに、なんでしょう?

 どこを食べてもおいしくて、バリッという音さえおいしいです。

 いつまでも噛み締めていたい、そう思えるお菓子なんてかつてあったでしょうか? 


 ああ、もうこれはソナエさんに軍配が上がりました。

 まいりましたね。

 こんな異国の女性が、茶色の神に愛されていたなんて。


「感服いたしました。あなたは、生き様まで茶色いのですね」

「マジで何言ってんのか、ワケわかんねえ」


 おそらく、ここでわたしたちはようやく対等になったような気がします。

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