究極の罪、遠足で即席ラーメン
「先生に、そんな過去が」
わたしの話を、女児は真剣に聞いていました。
「ええ。茶色はすばらしいのです。わたしをよき友人とを結びつけたのですから」
茶色弁当をいただきます。
ああ。見事なまでに
ハンバーグ、冷めてもハンバーグですね。
ガッツリとした存在感です。
秋らしく、しょうゆ味キノコソースにしたのも正解でした。
紅葉の運んでくる風の香りと、見事に調和が取れていますね。
ショウガ焼き、これもいいです。
刻みキャベツとの相性も抜群ですね。
から揚げ。牛のパンチと豚のタックルと続いて、鶏のモモキックですよ。
手羽先という手もありましたねぇ。
それはまた今度試すとしましょう。
そこへ、伏兵のエビフライです。
茶色い潜水艦が、これまたさらなる油の海を感じさせてくれました。
肉の三大巨頭をもってして最も脂っこいという謎の襲撃者。幸せです。
で、ドライカレーですよ。
このオカズ群をもって、なおも勢いがあるという最高のライスです。
オカズを引き立てるために、いっそ白飯で攻めるという手もありました。
が、もうひと茶色が欲しかったのです。大正解でした。
「先生のお弁当、おいしいです」
「あなたのお弁当も、すばらしいですね」
二人して、茶色を満喫します。
「で、ですね。わたしは長年考えて、リベンジを図りたいと思ったのです」
「どういった感じです?」
「これです」
わたしは、即席麺を用意します。
「うわあ、茶色い!」
そう。キング・オブ・茶色と言ったら、ラーメンでしょう。
「はあい。スープが茶色いですよね。もうこれだけで優勝したようなものです。あなたもどうぞ」
女児の水筒のフタに、麺を投下します。
お湯を注げば、もうそこには茶色パラダイスが。
「三分待ちましょう」
小さな砂時計を出して、麺がふやけるのを待ちます。
「で、二分半経ったら一気にズルルっと!」
高速スピードで、わたしは麺をかき込みました。
うん。これは、
「ちょっと硬い目のうちに食べてしまうのがコツですよ。長年の知恵です」
「ホントだ。早めに食べることで、ジャンク感が増しますね」
少女も、わたしをマネて少し早目の時間から食べ始めます。
「なんだか、悪いことをしているみたいです」
「そうでしょうそうでしょう。それが、罪の味です。よく噛み締めましょう」
茶色は、不健康の代表ではありません。
エンターテイメントってのは、たいてい体に悪いものです。
それを摂取することに寄って、日々の節制にも磨きがかかるというもの。
ズルズル。
「罪深いは、おいしいんですよ。それを理解した上で、我々はうまさの上に成り立っているとわかるものなのです」
美味を知らずして粗食を説くことは、たいして稼いでいない人が
『人生はお金じゃない』
と説くものです。
説得力がありません。
「体に悪いから、なんだというのでしょう? どんな偉い人だって、軽めのドラッグだと知ってもお酒を飲みます。食のありがたみを知るからこそ、不健康から尊さを感じ取れるのです」
美食を追求すれば必ず行き着く、不健康という壁。
しかし、そこに尊さがあるからこそ、人は美食を追求するのです。
不健康になるとわかっていながら。
少女を説得しつつ、麺をすすりました。
「能書きが過ぎましたね。食べましょう。なんでも食べれば、道は開けますよ」
その後は、静かに食事を続けます。
「ごちそうさまでした、クリス先生。わたしの悩みなんて、些末なことだったんですね」
「人は健康食ゼリーなんかで、できていないんです。健康食も不健康食も取り込んで、人はできあがっていくものではないのでしょうか」
「はい。なんだかわかった気がします!」
少女は清々しい顔で去っていきました。
そう、茶色に罪はないのですよ。
ちょっと人を狂わせるくらいで。
(茶色弁当編 完)
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