咎人青春編 ~駄菓子のティータワー~

 それは、我々が花の学生だった頃でした。


 思えばその日も、こんな秋深い頃だったでしょうか。


「なんですかこれは、ウルリーカ・ヘンネフェルト! 説明なさい!」


 女教師が、ウル王女の行為にブチキレています。


 彼女が怒っている理由は、木の切り株に建てられたティータワーでした。


 ウル王女の執事さんが、切り株に立派なティータワーを設置していました。

 その女執事さんも、我が校の生徒という徹底ぶり。

 幾分もスキがありません。黙々と作業をしています。


「ですから、ティーセットですわ」


 まったく悪びれる様子もなく、ウル王女は先生に説明しています。


 水筒でロイヤルミルクティーを淹れたあと、女執事さんは作業へ戻りました。


「遠足といえど、エレガントであれ。それこそ、ヘンネフェルトの精神でございます」


 執事の女生徒さんも、まったく悪びれていません。

 自分たちがどれだけの奇行をしているかさえ、誇らしげに語ります。


「ですが、ちゃんと予算に収めるようといったはずです!」


 女学生のおやつの上限が銅貨三枚もどうよ、と思うのですが。


「ちゃんと予算内に収めていますわ。我がヘンネフェルトは王族なれど、咎められるような出過ぎたマネはいたしませんの」


 おっしゃるとおり、お菓子はそのへんで買える駄菓子です。

 ラムネ、ピーナッツ入りのチョコ、ゲソの串というラインナップ。

 極めつけは、『ジョン・キャベツ』という名でありながらソース味で、キャベツの味はしない謎のスナックです。


「ゲソいいわね! アタシの柿ピーと交換しない?」


 シスター・エマが、柿ピーとゲソをシェアしました。


「あんたも一杯どう?」


 エマはコドモビールまで交換しようとします。


「遠慮してきますわ」


 ウル王女は断りました。


 執事の方は、いただいたようです。


「『王族だから庶民のお菓子は口に合わない』といった概念は、彼女にはありません。むしろ率先して買い物をしていましたよ。どうか、ご容赦を」

「シスター・クリスが言うなら」


 手に負えないと思ったのか、先生は説得をあきらめました。


「ありがとうございます、クリス・クレイマー」

「わたしは、オカズをいただけますか?」

「ええ。どうぞ。この焼き鮭サンドはおすすめですわ!」

「いただきますね。うん、罪深うまいです」


 幕の内弁当をサンドイッチにするという発想には、ついていけませんが。

 お金持ちって、どうしてこう思考が斜めっているのでしょう?


 ああでも、フルーツサンドは普通においしいですね。これは大当たりです。


「わたくしは、卵焼きをいただきます」

「ここのは、絶品ですよ! 食べてみてください」


 わたしの弁当は、各お店をかけずりまわってかき集めた、極上品です。

 我が家は

「腹一杯になりたければウチで食え。本格的にウマいものが食いたいなら外で食え」

 をモットーとしています。

 専門的なものは人に作ってもらえと。

 なので、自分で作るといいかげんになっちゃうんですよね。


 王女は卵焼きを半分に切って、口の中へ。


「いただきましょう。おお、これはおいしい!」


 落ちそうになった頬を、ウル王女の執事さんが手で抑えます。


「あなたもどうぞ」


 ウル王女は、もう半分を執事さんにあげました。


「いえ、私は自分の分が」

「いいから食べなさい」

「では。ああ。おいしいです」

「ねえ、ですわよね」


 うっとりする執事さんに、王女も満足げです。


「ありがとうクリスさん」

「とんでもありません」


 和やかにお昼をとっていたときでした。 


「それはそうと、クリスさん」


 先生の目が、わたしに向けられます。


「なんでしょう」

「随分と茶色いお弁当ですね」


 その言葉には、明らかな侮蔑があります。


「さきほどエレガントを否定なさったお方が、今度は庶民的ガッツリメシを否定なさるおつもりですか?」

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