女子のお弁当が茶色いのは、罪なのでしょうか?

 みんなでシートを敷いて、お弁当になりました。

 おにぎりの子もいれば、サンドイッチの子もいますね。


「見て見てシスター、カピバラさん!」

「ほほー、キャラ弁ですか」


 鶏そぼろで、カピバラさんの顔ができていますよ。

 こちらは、卵そぼろと紅ショウガでヒヨコさんです。


 わあ、みんなカラフルなお弁当ですね。いかにも女の子らしいです。

 どのお弁当からも、親御さんの愛情を感じますね。


 おや、一人の子どもがお弁当を開けようとしません。


 その少女は誰とも寄り添うこともせず、一人黙々とお箸を動かしていました。


「どうしました?」


 わたしがお弁当を覗き込もうとすると、少女はフタを閉じてしまいます。


「お弁当を、見せたくないのですね」

「だって、みんな中身がかわいいんだもん」


 ああ、もしかして。


「ひょっとして、お弁当が茶色いんですか?」


 少女が、ビクッとなります。


「怖がることはありません。わたしは、誰かのお弁当を差別したりなんてしません。茶色いお弁当を笑うような人がいるなら、わたしはその人を茶色の神様に謝らせます」


 わたしの言葉が響いたのか、少女は少しだけリラックスしたようでした。 


「お隣よろしいでしょうか?」

「はい」


 許可をもらって、わたしは彼女の隣に座ります。


「お弁当を広げてもらいますか?」


 満を持して、少女がお弁当を開けました。わたしにだけ見えるように。


 見事に茶色が広がっていました。

 から揚げ・とんかつ・エビフライとは、実にすばらしい。

 茶色い三連星という、基本を抑えています。


 添え物のパスタにポテサラが、アクセントとなってより茶色を際出せていました。おにぎりが進むというものです。


 このお弁当は、炭水化物とタンパク質でできた要塞ですよ。


「本当に、笑わないんだね?」

「もちろんです。見事な茶色の経典です」


 教科書のような構成ですね。


「私ね、スポーツやってるから。栄養をたくさん取りなさいって、お母さんが」

「はい。英才教育が行き届いていますね。お母様があなたを大事になさっているのを感じます」


 とはいえ、女の子でお弁当が茶色すぎるのは恥ずかしいのでしょうね。


「こんなの見せたら、笑われちゃう」


 また、少女はしょんぼりしてしまいました。 


「ちっとも恥じることはありませんよ。だってですね。ほら」 


 一方わたしはというと、実に茶色いです。


 例の茶色い三連星に加えて、トマトソースのパスタ。

 ポテサラに、ハーフハンバーグ。さらに豚のショウガ焼きという組み合わせ。


 神っています。


「すごい。私より茶色い!」

「白いゴハンにまで茶色を広げるのが、ミソです」


 少女は、呆気にとられていました。


「奥が深い。これが茶色いお弁当の世界」


 昔から、茶色いお弁当が大好きなんです。


「わたし、わざわざ定食屋さんまで行って、詰めてもらったんですよ」


 自分で作るという頭は、わたしにはありません。

 作ってもらったほうがおいしくなるとわかっていますから。


「シスターの手作りってないんです? ウサギのリンゴとか」

「ありますよ。ウサギに挑戦してみました」


 わたしは、手作りのウサギを生徒に見せてあげました。


「私、ウインナーのウサギなんて、初めてみました」

「そうですか? わたしの田舎ではメジャーでしたよ」


 土地によっては、珍しいのでしょうか?


 とにかく、いただきましょう。


「うん。茶色うまい。そして罪深うまい」



 茶色いは、美味しい。茶色いは、正義です。茶色いは、神ってますね。



「おいしい。やっぱり、このおいしさにはかなわないや」


 そうです。茶色いに抵抗するなんて、ムダなことはおやめなさい。むしろ受け入れましょう。


「シスターは、昔から茶色神だったのですか?」


 茶色神というのはわけがわかりませんが、いいたいことはわかります。


「わたしなんて、まだまだですよ。学生時代には、もっと茶色い人がいました」

「そうなんですか!?」

「その人は、人生が茶色でしたね」

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