茶色いお弁当は、罪に含まれますか? ~咎人青春編 その2~

ハイキングとピクニックの違い

 今日は幼稚舎の子たちと、楽しいピクニックです。


 いわゆる、「紅葉狩り」ですね。


 あー、秋の風が気持ちいいです。


「おお、これがギンナンの実ですね」


 先日ソナエさんの家でごちそうになった、ギンナンが地面に落ちています。


「あああ、食べちゃダメですよ」


 園児の一人が、ギンナンの果肉を手に取ろうとしました。


 慌てて、わたしは園児の手首を掴みます。


「匂いが手について、取れなくなっちゃいますよー」


 果肉は悪臭がする上に、食べられないのだとか。


 園児の方も匂いが強すぎたのか、二度と触ろうとしません。


 銀杏に紅葉、楓も。どれも、たくましく美しいですね。少し歩いただけで、土の香りに癒されます。


 それになにより、リュックに詰めたお弁当が楽しみでなりません。


「楽しそうね、クリス」

「はい、主にお弁当がっ!」 


 行きつけの洋食屋で詰めてもらった、特製のお弁当です。


「まあ、今日はピクニックですもんね。楽しみ方は、人それぞれよね」


 エマに、呆れられました。


 いいのです。わたしが楽しければそれで! 


「クリス先生、ハイキングとピクニックって、何が違うの?」


 わたしは先生ではないのですが、知っているのでお答えしましょう。


「お外へ行く目的が違います。歩くのが目的ならハイキング、食事をしにいくのがピクニックです。今日は多少歩きますが、主目的はお弁当を広げることですよ」


 幼稚舎の子たちが「わーい」とはしゃぎます。


 引率係のわたしたちも、つられて楽しみたくなってきました。


「おはようございます、ソナエさん」

「おっ、来たねシスターたち」


 神社にお邪魔すると、巫女服姿のソナエさんが出迎えてくれます。


「ここの水場で手を洗って、お参りするんだぞ」


 教会の所属ですが、よその神様のお参りをしに来ました。


 我が神は「人に害をなさなければ、いすわってOK」という、ユルいスタンスです。あまり厳格な締め出しはしません。排他的な行為は、デメリットしか生まないと知っているからです。



 例の、モーリッツさんの崖も見に行きましょう。


 まさか、ソナエさんの神社の敷地内だったとは。後で知って驚いたものでした。


 今日も、冒険者の卵である若い戦士たちが、崖を登っています。


「もっと早く判断をしろ! 敵は待ってくれないぞ!」


 コーチ役のベテラン冒険者さんも、檄を飛ばしていました。生徒を死なせたくないので、指導にも熱が入っています。


 幼稚舎の子たちも、初心者コースで汗を流しました。


「気をつけてくださいねー」


 転落に注意しつつ、一緒になって崖にトライします。


「お疲れさまでした。みなさん、おケガはありませんか?」


 全員、無事のようですね。よかったです。 


 ああ、カレーうどんの屋台が光っていますよ。

 いい匂いがしてきますね。


 まだ朝だというのに、おなかの虫が鳴き出しました。


 でも、今日はガマンです。お弁当ですから。


 後ろ髪を引かれる思いで、崖を後にしました。まだ、お昼ではありませんから。


 川沿いの道を、進みました。


「少し、休憩しましょ」


 エマの一言で、おやつタイムにします。


 ハンガーノック、つまり空腹によるガス欠は怖いですからね。

 いくら今日のコースがお散歩程度のゆるい道のりだとしても、油断は大敵です。


 川で顔と手を洗い、おやつにしました。


「シスター・ヨアン、どうぞ」

「ありがとうございます、クリス先輩」


 わたしは手持ちのカリカリアンズと、ポケットサイズのようかんをヨアンと交換しました。


 ああ、薄味ですね。これはこれで、栄養食としておいしいです。


 ですが、これがいいのですよ。お弁当の楽しみが増えます。本当は、油菓子がほしいところですけれど。ここでしょっぱいモノを摂ってしまうと、お弁当のありがたみが減ってしまいますからね。


「ゴールの草原は、もうすぐですよー」


 お弁当も、もうすぐです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る