かぼちゃコロッケは、罪の味

 油の匂いにつられて、わたしたちは歩き出しました。


 たどり着いたのは、露店です。


 おばちゃんが潰したかぼちゃを丸めて、コロッケにしていました。


 ハロウィンでは、かぼちゃをくり抜いてランタンにします。魔除け代わりですね。


 今夜はあちこちの家に、かぼちゃランタンが飾られていました。


 くり抜いたかぼちゃの身は、料理に使われます。パンプキンシチューの香りが、各おうちから漂っていましたよ。


 それでも余ってしまう家や、ハロウィンをする暇がない家もあります。冒険者などですね。


 彼らのために、かぼちゃコロッケの露店があるのです。


 わたしたちの前で、冒険者さんたちがコロッケを買って帰っていきました。


 熱した油の中で、コロッケが踊っています。カラカラという音が、タップダンスのようですね。


「いい香りですわね。音も素晴らしい」

「ええ。ハロウィンを締めくくる、最高の食事です。いただきましょう」


 その場でいただきます。食べている間、教会のみんなへのおみやげ分も揚げてもらいました。


「わたくしも、御者一家に持って返って差し上げましょうかね」


 味見なんて、必要ありません。おいしいのはわかっていますから。


「では、いただきます」


 揚げたてを、サクッと。


 間違いありませんでした。罪深うまい。


 かぼちゃの甘さと、玉ねぎとひき肉の塩加減が、絶妙な組み合わせですね。


 はあー。一口一口が、幸せの味がします。


 じゃがいもコロッケとは、また趣が違いますね。


おいしいですわ。この露店に来て、大正解ですわ」


 ウル王女も、もうコロッケがなくなりそうです。


 さっきソナエさんのお家で甘いお菓子をたらふく食べたのに、まだ入りますよ。


 なんという至福のときでしょう?


 こんなに暖かいです。雪が降るんじゃないかという寒さの中、外へ出ているというのに。


 コロッケを食べるときって、どうしてこうもホッコリするのでしょうね。


 これはおいしいです。リピーターになりましょう。


「もう一個買いましょう。冷めたので結構ですよ」


 おばさんに、コロッケを一つもらいます。


「冷めたのも、これはこれで違った甘みがあっておいしいですね」

「ホントですわ。これなら、御者も喜ぶでしょう」


 ごちそうさまでした。結局、四個くらい食べましたかね。


 教会の近くまで戻ると、御者さんが迎えに来ていました。


「コートをお返しいたしますわ」

「はい。たしかに」


 わたしは、ウル王女からコートを受け取ります。


「魔王様、今日はご満足いただけましたか?」


 そうそう、今日のウル王女は魔王という設定でした。


「ええ。たいそう喜びましたわ! あなたの珍しい一面も見られたし」


 大げさに、魔王ウル王女はポーズを取ります。


 大量のおみやげを持って、わたしたちは別れました。



「ただいま戻りました」


 先に帰っていたエマたちに、声をかけます。


「みなさんに、おみやげがありますよー」


 わたしは、包みをみんなに見せました。


「……またコロッケなの?」


 エマが、ため息をつきます。


「どうかしましたか?」

「それがね、クリス。見てよこれを!」


 テーブルの上には、大量のかぼちゃコロッケが。


 みんな、考えることは一緒でした。


 大量に余ったかぼちゃコロッケを見て、シスターたちが呆然としています。


 残りは明日の朝、パンに挟むことにしました。


「あっ、それ」


 ヨアンが、わたしが持っていたコートを手に取ります。


「お使いになったんですね?」


「え、ええ」と、ごまかしました。


 ウル王女と一緒にいるのは、内緒ですから。


 ヨアンのコートだったんですね。


「小さくありませんでしたか?」

「ちょうどいい大きさでした」

「でも、二枚重ねだったんですよね?」


 う、わたしもジャケットを着ていたのでした。失敗しましたね。


「コロッケを買う予定だったので、使いました」


 コートを、ヨアンに返しました。


 かぼちゃの香りで、お姉さまの残り香って消せますかね?

 

(かぼちゃコロッケ編 完)

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