ギンナンは、罪の味

 ハロウィンの最後をしめくくりは、ソナエさんの神社にしました。


「こんばんは。『突撃 隣のお菓子探訪』です」

「ああ、ハロウィンね。上がりなよ」


 話が早いですね。さっそく、中に入れてもらいましょう。


「すごい衣装ですわね?」


 ウル王女も、さすがに引いていました。


 驚いたのは、ソナエさんの衣装です。


 なんとジャージと下はブルマではありませんか。

 

 女学校当時の体操着が、まだ入る人がいたとは。


 とはいえ、シスター・エマと張り合えるほどの豊満なバストは、さすがに隠せなかったようですが。


「知らねえのかよ? 地味ハロウィンだよ」

「地味なハロウィンですか?」


 あなたの美的基準では、こんなピチピチのブルマが「地味」なのですね。


「アタイのはアレだ。『学生時代のジャージを着て酔っ払う成人女性』のコスプレだな」

「いつものあなたじゃないですか」

「まあ、いいじゃん。ほら、汁物もあるから」


 は~あ、囲炉裏の火が温かいです。

 しばらく、あたらせてもらいますかね。


 ああ、汁物が罪深うまい。


 みんなが寒空の下でお菓子を求めている中で、我々はなんと罪な休憩をとっているのでしょう?


「赤ら顔ですね、ソナエさん」

「さっきまで飲んでたからな。コイツと」


 そう言ってソナエさんは、わたしたちに串に刺した豆のようなものを渡してきます。


 なんでしょう? こうやって食べるようですが。


「ああ、あんたらでは食う文化はねえのか。コイツはギンナンってんだ」

「ギンナンとは?」

「ぶっちゃけ、銀杏の実だな」


 ほほお、東洋では、銀杏の実を食べるんですね。


「あげられるおやつといえば、これくらいかな?」

「とんでもない。栗をありがとうございます」

「まあまあ。うちじゃあ、栗はそのまま炒って食うくらしかねえから。あんたら女の子ちゃんに調理してもらえたら、食材もありがたいだろうさ」


 そのおかげで、喜ばれていますよ。


「では、いただきます」

「どうぞどうぞ」


 これは、罪深うまい。


 新食感です!


 種なのに、身がプリプリです。

 苦いんですが、この苦味がクセになりますね。

 今まで甘いものやしょっぱいものを食べてきたので、ほどよい苦味は新たな刺激になっていますよ。


おいしいですわ」

「くはー、厄払ヤバい! たまんねえな、酒に合う!」


 一升瓶を手酌しながら、ソナエさんもギンナンの味に酔いしれます。


「でも、あんな臭い身から、こんなおいしい豆が取れるなんて」

「大変だったんだよ。身から種を出しては天日干しにしたりさ。今日もその作業に追われていたのさ。おかげで、ジャージの下がまた汚れた」


 外を指差しました。


 庭に、ジャージの下が干されています。


 ソナエさんがブルマ姿なのは、そのせいだったんですね。


「ありがとうございましたわ。これは少ないですが、戦利品ですわ」


 ウル王女が、ソナエさんにお菓子をおすそ分けします。


「おっ、サンキュ。一緒に食おうぜ。最近の駄菓子はツマミにいいんだよ」

「せっかくですし、そうしましょう」


 我々はお酒をいただきませんでしたが、お菓子を分け合って楽しみました。


「学生時代の遠足を思い出しますわ」

「そうだ! 聞いてくださいよ。当時この人、銅貨三枚までと言われてたおやつに、ティーセットタワーを持ってきたんですよ! 水筒にお紅茶ならまだ許されますが」

「駄菓子で構成したタワーですから、ちゃんと規定は守っていましたわ!」


 わたしが王女の当時を暴露すると、相手も反論してきました。


「それより、あなたの方ですよ。シスター・クリス! お弁当の中身がフル茶色って、どこのバーバリアンですの?」

「こいつ、当時から食い意地が張っていたんだな」


 二人が、わたしの食事観にドン引きしています。


「おいしいに罪はありませんよ!」


 こうして、ソナエさんの家を後にしました。


「いやあ、もう少し入りそうですわね」

「まったくで……」

 

 揚げ物の香りに、わたしたちは会話を止めます。

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