ハロウィンは、かぼちゃコロッケで罪のつぐないを ~ギンナンとかぼちゃコロッケ~

教会に舞い降りた天使と悪魔

「せーのっ、トリック・オア・トリート!」


 幼稚舎の子どもたちが、おうちを回る練習をしていました。

 みんな、思い思いの仮装をしています。


 天使、狼男、包帯まみれのミイラなどです。

 中には血まみれのナースやミニスカ赤ずきんなど、特定の層を狙った子もいますね。

 色を知るお年頃でしょうか。


「あらー、かわいいですね、みなさん。お菓子をあげましょうねー」


 予め焼いておいたクッキーを、わたしは子どもたちが持っている網カゴに入れてあげました。


「わーい」と、子どもたちが喜びます。


 シスター・エマも、サラミとピーナッツを分けてあげました。

 お酒のつまみですか……。

 子どもたちが喜んでいるからいいものを。


「いいわね。あたしも仮装しようかしら?」

「あなたはいいんですよ、エマ」


 存在そのものが天然サキュバスなあなたがコスプレなんてしたら、いたずらトリートでは済まされません。おしおきが必要ですね。


「いいのがあったわ! 着替えてくる!」


 聞いちゃいねえ。


「えーい、タイホしちゃうわよ!」


 現れたのは、ミニスカ女騎士です。

 紙でできたおもちゃの剣を、嬉々として振り回していますよ。


「あなた、魔法使いじゃないですか」

「だから、仮装になるんじゃない。魔法使いだったら本職でしょ? コスプレにならないわ」


 そういう理屈でしょうか?


「先輩方、これなんていかがでしょう」


 後輩のシスター・フレンが、いつもと違うアダルトな魔女風コスで現れました。


「見違えましたね、シスター・フレン」

「ポイントは、この魔方陣の刺繍です」


 網状の手袋に、手の甲に異様な黒魔術の刺繍が施されています。

 こういう特技があったのですね。


「素敵よ、フレン」

「ありがとうございます、シスター・エマ」

「じゃあ、あたしたちは子どもたちと一緒に街を回ってくるわ」

「私も行ってきますね、先輩」


 エマたちの班とフレンの班に別れて、幼稚舎の子たちがお菓子をもらいに行きました。


 お菓子を焼く担当のわたしは、お役御免です。

 なにをしましょうかね。


「ぬわーはっはっはっ! お菓子を寄越すのだですわ、脆弱なる教会のシスター共ぉ!」


 オッドアイのゴスロリ悪魔が、ノックもせずに教会へ殴り込みに来ました。


「なにをしているんですか、ウル王女?」


 わたしが尋ねると、ゴスロリ悪魔は大げさに見栄を切ります。


「ウル王女ではなーいですわ! 我が名は悪役令嬢こと魔王なり、ですわぁ!」


 そんなことをする人は、ウル王女をおいて他にいません。


「はいはい。どうぞ」

「どうもありがとうですわ」


 焼き菓子とお茶をあげたら、おとなしくなりました。


「飲んだことのないお茶ですわね? 薬草でしょうか?」

「ほうじ茶です。甘いお菓子に合いますよ」

「それに、焼き菓子の香ばしさは、栗でしょうか?」

「よくわかりましたね。茹でた栗を潰して、クッキーに混ぜたんですよ」


 お砂糖を少なめにするのが、ポイントです。

 甘くしすぎると、栗本来の甘さまで飛ぶそうでして。


おいしいですわ。あなた、こんな才能がおありでしたのね?」

「ソナエさんに教わったんですよ」


 わたし本人は、本当に料理が得意ではありません。

 自分の分くらい作れます。

 が、人様にお出しできるレベルではとてもとても。


「あの、スケバン伝説さんに?」

「それ、本人に直接言ったら怒られますからね?」

「フフフ、案外、もっとも女子力が高いのはあの方なのかもですわね」


 王女をして、そう言わしめますか。わたしも同意見ですが。


「で」


 ほうじ茶でノドを潤してから、ウル王女は仕切り直します。


「わが妹フレドリカ、今はシスター・フレンですね。元気にしていますか?」

「とても。お酒も楽しんでいます」

「そうですか。もう、彼女が貴族にいじめられることはないのですね」


 わたしは、口を噤みます。

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