魔王と悪堕ちシスター

 フレンことフレドリカ王女は昔、とある王族の方と結婚が決まっていました。

 しかし、それを妬んだ女性貴族たちからたいそうなイビリに遭ったのです。

 また、その男性王族も結婚直前に不貞が発覚という仕打ち。


 フレンは心を閉ざしてしまったのです。


 それ以来、ウル王女は貴族たちに対して遠慮がなくなりました。


 陰口を嫌い、貴族を何よりも嫌っている背景には、妹のフレンのことがあったからです。


 もちろん、フレンに嫌がらせをしてきた者たちも、フレンの元婚約者も、ひどい目に合わされたと聞きました。

 どんな手段を使ったかまでは、聞いていませんが。


 王女いわく、「反省を促して差し上げました」とだけ。


「あなたがたのおかげですわ。おいしいお酒もいただいているようですし。優しいシスターたちに囲まれて。自身の責務も全うなさっているようですね」

「会われないんですか?」

「はい。今はまだ」


 ウル王女は、決して彼女に会おうとはしません。


「自ら修道女となったフレンの気持ちを、わたくしは汲んだのです」


 王族である自分がしゃしゃり出てはいけないと。


「フレンが出かけたようなので、わたくしが颯爽登場となったわけです」


 どういうわけなんですかね? せっかくいいお話でしたのに。


「はいはい。で、どうするのです?」

「ハロウィンといえば、おうち周りでしょう? わたくしも混ざって、お菓子をもらいに行きますわ」


 しゃべっている間、ウル王女は教会で悪魔メイクまでバッチリ決めています。

 どこまで楽しむ気なのでしょう。

 

 お祭りは人の胸を踊らせるといいますが、ここまでとは。


「できましたわ」


 髪にメッシュまでかけて、準備完了です。

 これが王族だなんて、誰が信じるのでしょう?


 相変わらず、物好きな方です。庶民の遊びが好きな人ですね。


「あなたは子どもを招いてパーティをする側の人では?」

「それは、お屋敷の人たちに任せています。わたくしは、一緒になって楽しみたいですわ」


 抜かりはない、と。


「では、栗のクッキーを持って行きましょうか」


 お菓子をもらったら、お返しに渡します。


「お夕飯は、外で取りましょう」

「さすがクリスさんですわね。参りましょう」


 急かす王女の肩を、わたしは掴みました。


「夜は冷えますから、コートくらい羽織りなさいな。お体に障りますよ」


 ちょうど、黒いコートがありますね。これでも着てもらいましょう。


「ええ。そうさせてもらいますわ」


 わたしは、漆黒のコートを王女に着せます。


「このコート、薄手ながらイカツイですわね。ポンポンが、より悪魔的ですわ」


 いいじゃないですか。より、魔王らしくなってきました。

 小悪魔という感じですが。


「あなたは着替えなさらないので?」

「これからですよ」


 わたしも、衣装部屋へ引っ込みます。


「何を着ましょうかね?」


 余ったお洋服でコーデして……待たせてもアレですし、もういいです。

 こんなもんですかね。


「できました」

「おーっ。これはこれは」


 修道士の服を、超ミニスカートにしただけです。

 寒いので、黒のタイツを穿きました。

 箔をつけるために、サングラスをかけています。


「なるほど、悪徳シスターですか。実に、悪魔的ですわ」

「でしょ?」


 ハロウィンですから、いつもと違った格好もいいでしょう。


「地上に降りた魔王と、魔王に洗脳された悪堕ち悪徳シスター。実に悪魔的で絵になりますわ!」

「そういう設定にしましょうか」


 気に入ったみたいですね。


「わたしはなんで、洗脳されたので?」

「えっとーっ、食べ物で釣ったことにしましょう」


 やっす。


「シスター・クリスを洗脳したんですから、相当強い魔王ということですわ!」


 楽しそうですね、王女は。


 なんだか、こちらまで楽しくなってきました。

 これが、お祭りの魔力ですね。


「街へ繰り出しましょう!」


 行くのはいいのですが、お家に渡すクッキーに手を出さないでいただけますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る