タレでも塩でも、焼き鳥は罪の味
待ちに待った焼き鳥屋さんです。
全員、汗をかいてから来たので、準備は万端ですよ。
「いらっしゃいませ。三名様ですね。こちらです」
女性店員さんに案内され、座敷まで。
「エール。それとモモ、ムネ、皮、ナンコツ、ボンジリを塩で」
「同じものをタレで!」
競い合うように、エマとフレンが注文をします。
「そちらのお客様は?」
「えっと、わたしもモモ、ムネを。あと、つくねをください。それと、さっきのボンジリってなんですか?」
「鶏のシッポのお肉です」
「じゃあそれを……タレで。それと、砂肝を塩で。あとライスを」
塩もいいかと思いましたが、可能性を残しておきましょう。
わたしが「ごはん党」であると知っているので、ふたりとも静観しています。
他には、野菜の焼きものを数点頼みます。特におナスは楽しみですね。
「お飲み物は?」
そうでした。わたし、お酒ダメなんですよね。
「グレープフルーツジュースを」
「かしこまりました」
牛カルビ串や豚バラ串などもありました。
おそらく、そちらの方がごはんには合うでしょう。
とはいえ、今日は焼き鳥です。自粛しました。
「相変わらず飲めないのね?」
「こればかりは体質ですからね。私やエマ先輩と違って、クリス先輩はお酒を分解できないのでしょう」
そのとおりです。お酒を飲むと頭が痛くなるのですよ。
「お先にお野菜をどうぞ」
最初にお通しとドリンク、大根サラダと串焼き野菜が来ました。
「では、乾杯」
エマが音頭を取って、全員でジョッキを鳴らします。
待望のおナスを。
おおっ、
噛んだ瞬間に野菜の水分がジュワッと。
その中に含まれている旨味が、口全体に広がっていきますよ。
「あの先輩、一本いただいても?」
「あら、あなたナス嫌いじゃなかった?」
エマの言う通り、フレンはおナスを食べられません。
「なんだか、おいしそうなので」
「そうよねぇ。クリスの食べてるとこって、こっちまでお腹が空いてくるのよ」
わたしは、フレンの方へお皿を寄せました。
「どうぞ。そのために人数分頼みましたので」
「いただきます。ううん! これ、おいしい!」
フレン、おナスを克服しました。
「よかったわね。ナスを食べられて」
「はいっ」
続いて、焼き鳥が。
何からしましょう。モモですかね。
「では、シェアしましょうか」
わたしは、割り箸で串から身を引っこ抜こうとしました。
「あーっ!」
「だめーっ!」
二人して、わたしの手首を掴みます。
「な、なんです?」
オドオドしていると、エマが顔を近づけてきました。
「自分の串は、自分で食べなさい!」
「そうですよ! 串から抜くと、味が落ちてしまいます!」
そんなもんなのでしょうか? よくわかりません。
「つくねは特に串から外しちゃダメよ! 肉汁が出ちゃうの!」
この二人、串焼きガチ勢だったようですね。
それでしたら、串から抜かずに食べましょう。
「あーっ。間違いなく
安定の味です。鶏ですから、ゴハンとの相性バッチリですね。
皮のモチモチ感と、つくねの粘り気。
これが案外、コメに合うという発見がありました。
ナンコツが、強烈な味ですね。コリッコリです。
「気に入ったみたいね、ナンコツ」
「手羽先のナンコツとは違った味わいがありますね」
「あんた、手羽先もナンコツまできれいに食べるもんね」
手羽のナンコツは、好物ですよ。田舎でよく食べました。
「オホホオ、ボンジリ最高ですね」
トロトロです。
これは塩とタレのどちらでいくか、戦争になるのもわかります。
舌の上で、絶賛大戦争中ですから。
戦争といえば、エマとフレンは冷戦状態ですね。
エマは相変わらず塩を、フレンはタレを楽しんでいます。
うーん、会話がありません。
口を開けば、言い争いになるとわかっているのでしょう。
ケンカにはなっていません。
とはいえ、歩み寄りの姿勢がほしいですね。
おっ。いいのがあるじゃないですか。
「すいません、同じメニューを、次は『塩ダレ』で」
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