童貞を殺す私服でおでかけ

 さて、チートデイ当日を迎えました。


「クリス先輩の私服、かわいいですね」

「ありがとうございます」


 わたしは秋らしく、白いブラウスとピンクのカーディガン、茶系のロングスカートで決めています。

 攻めない無難なファッションですね。


「あなたの衣装も素敵です。フレン」

「わあ、ありがとうございます」


 あったかそうなパーカーは、わたしでも予想できました。

 黒のミニなのが、意外です。

 あとこの子、私服だとツインテになるんですよね。

 メイクも素敵です。


 これはいわゆる「小悪魔コーデ」というやつでしょうか。

 彼女にしては、攻めますねぇ。

「童貞を殺す」と言われても、わたしなら信じますよ。


「特に髪留めが、素敵ですね」


 雪の結晶のような虹色の髪留めが、フレンの髪を彩っています。


「これ、エマ先輩が選んでくださったんですよ」


 うれしそうに、フレンは語りました。


「おまたせ。みんな悪いわね、コーデに手間取っちゃって」


 ベレー帽に縦セーター、下は濃いワインレッドのホットパンツです。

 黒のニーソが、エマの太ももを締め付けてパッツンパッツンですよ。

 もはや最強ですね。


 世間的に、このコーデがすごいのかどうかわかりません。

 

 が、エマのムッチムチな魅力を最大限に引き出しているのは確かです。

「歩けば童貞が勝手に死ぬ」と言われても信じますね、わたしは。


「行きましょ、クリス」

「ええ。参りましょう皆さん」


 わたしを挟んで、エマとフレンが歩きだします。

 いがみあっていた昨日が、ウソのようですね。


 待ちゆくみなさんが、わたしたちに注目をはじめました。

 ジョギングのご老人も、犬さえも。


 サキュバスと小悪魔を侍らせているわたしは、世間からどう見られているのでしょう?

 まあ、きっとシスターですよね。


「クリス、その私服かわいいわね」

「ありがとうございます」


 秋が来て肌寒くなったので、地味めに機能的な服を選んだだけなのですが。


「もっと誇っていいのよ。みんな、あなたに注目しているんだから」

「そうですか?」

「ええ。暖を取りつつ、おしとやかさを失っていないわ」


 どうでしょうね?


 わたしには、二人の方に視線が集まっているように見えますが。


「あなたみたいな洋服を……なんと言ったかしら?」


 エマが思案していると、フレンが手を上げました。


「童貞を殺す服ですよ先輩!」

「そうそう! 童貞? を殺す服っていうそうよ!」


 わたしが、童貞を殺すとは?


 いたいけな学徒の少年が見ているのは、わたしだと?


「ご冗談を。わたしにそんなことができるわけ」

「いえいえ。クリス先輩の優しさオーラは、確実に童貞を殺しますよ!」


 フレンが言うと、エマも「うんうん」とうなずきます。


「そうよクリス。もっと胸を張りなさいよ」


 そう言われても、あまりうれしくありませんね。




「ところで、童貞ってなにかしら?」



 わたしとフレンが、固まりました。


……エマよ。あなたはずっと、そのままでいてくださいね。



「まずは、モーニングを食べに行きましょう」


 以前訪れた純喫茶で、モーニングをもらいます。


 ああ、いつ来ても罪深うまい。


「ここのコーヒー、最高ね!」

「たまごサンドがすごくおいしいです。マヨネーズって、お酒にだけ合うんだと思っていました」


 フレンが、口をリスのように大きく膨らませました。ちなみに彼女のドリンクはホットミルクココアです。


「どこでこんなお店、知ったの?」

「ゴロンさんですよ」


 ウソは言っていません。今さっき、ゴロンさんが出前に出たので。


「ホントに、お金を出さなくていいの?」

「はい。その代わり、次のチートデイはお二人が出してくださいね」


 わたしが提案すると、エマが「いいわね!」と言いました。


「お安い御用よ! なんでも頼んでちょうだい!」

「おごり奢られの関係、アリだと思います」



 フフフ、お二人は知らないんですね。


 わたしが五人分食べるって。

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