焼き鳥を「タレか塩か」で争うのは、罪 ~タレと塩の焼き鳥~

タレ塩戦争

 事件は、夕飯時に起きました。


「焼き鳥なら断然、塩よ!」

「先輩、そこはタレですよ、タレ!」


 珍しく、シスターエマが後輩ちゃんとモメています。

 食堂に、二人の口論が響き渡りました。


 エマと言い争っている後輩ちゃんは、シスター・フレンといいます。

 わたしより小柄ながらウワバミという、妙な属性持ちです。

 外ハネのボブカットもカワイイですね。


「シスター・フレン、エマとなにかありましたか?」


 自分のトレイを持って、わたしはフレンの隣に座ります。


「ちょうどよかったです。聞いてくださいよ、クリス先輩!」


 フレンが言うには、今度のチートデイで焼鳥屋さんに行こうとなったそうな。


「外食ですか。いいですね」

「それが、タレと塩のどちらがおいしいかで、ケンカになっちゃって」


 わかる気がします。


 焼き鳥は、タレか塩か。


 目玉焼きには、しょうゆか、ソースか。


 カレーは、ルーとライス半分か、ぶっかけか。


 もはや、「どちらかが罪深うまいかの頂上決戦」ですよね。

 

 はたから見るとどうでもいいんですけど、張り合っちゃいますよね。


「あたしは、サッパリした塩がいいのよ。タレで食べると、タレの味が舌にずっと残っちゃうし」


 エマの言う通り、お酒に合うのは塩でしょう。


「それもいいじゃないですか。塩だとお酒だけが目当てになっちゃって飲みすぎます。お酒が主役になっちゃうんですよ」


 フレンの言う濃厚なタレも、ライス派としては捨てがたい。


 どんなお酒を飲むかにも寄りますし。


「お酒が主役でもいいじゃない、フレドリカ!」

「ですから、エマ先輩は冒険心がなさすぎなんですよっ!」


 またしても、二人がヒートアップしてきました。


「おふたりとも落ち着いて」


 間に入って、二人をなだめます。


「お気持はわかります。どちらも、ご自分の味を追求なさるがゆえ、声が大きくなってしまうのでしょう。ですが、ここで騒ぐと他のシスターのご迷惑になります」


 わたしが諭すと、お二人も黙り込みました。


「それもそうね」

「ごめんなさい……」


 二人も、着席します。


 まあ、シスター・エンシェントが怖いんでしょうね。


「仕方ありませんね。では、わたしがジャッジいたします!」

「どういう意味ですか、クリス先輩?」

「わたしも、お二人の飲みに同行しましょう」


 シスター・エマが、わたしの言葉に反応します。


「あんたが飲み屋に行くなんて、珍しいわね?」

「いえいえ。こう見えて、冒険者の酒場には行き慣れています」


 多少の心得は、持っていると自負しています。


「たしかに。あんたには冒険者の顔もあったわね」

「ええ。ですから明日のチートデイは、わたしがお二人と一緒に行動し、同じものをいただきます。お酒以外を」


 わたしが提案すると、フレンも落ち着いてくれました。


 本当は、わたしが焼き鳥を食べたいだけなのですが。


「ありがとうございます、クリス先輩。ようやく私の理解者が現れた気がしますよ」

「いえ。当日は、あくまでも公平を保とうと思います」


 二人は、首をかしげました。


「お二人の料金は、わたしが持ちましょう」


 そういう提案をすると、やはり遠慮されます。


「いいわよ。そこまでしてもらうなんて」

「先輩の実家が、高名なお貴族様なのは知っています。ですが、我々だって」


 わたしは、首を振りました。


「自分のお金で食べたら、やはり自分の勧める味が一番だと固執します。人の金で食べて、初めて本物の価値・よさがわかるというもの」


 ムチャな理論なのは承知の上。

 ですが、おごってもらうとイヤでも食べないといけません。

 その理屈を逆手に取るのです。


「いかがでしょう? ここはひとつ、歩み寄りの姿勢と行こうではありませんか」


 アゴに手を当てながら、エマは思案していました。


「それもそうね。わかったわ」

「私も、そういうことでしたら」


 お二人も、わたしの謎理論を汲み取ってくれたようです。

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