炭火のサンマは、罪の味

 まずソナエさんは、サンマに塩を振ります。


「あんたは、こっちを頼む」


 ソナエさんから、大根を持たされました。輪切りになっていますね。


「木のボールの上におろし金を乗せて、大根をおろしてくれ」

「はい」


 ゴシゴシと、わたしは大根をおろします。


「あたいは、こいつをジュワーッと」


 庭に置いた七輪の上に、サンマをそっと乗せます。


 炭の上に、サンマの脂がポタポタと落ちていきました。


 脂が落ちつたびに、火がボッと燃え盛ります。


 そのたびに、ソナエさんはサンマを反対に向けたり、裏返したりを繰り返しました。


「はあああ、これは」


 川魚の炭焼は、わたしもよくやります。

 七輪で焼くサンマは、それとは違う趣がありますね。罪の香りが、鼻を刺激しました。


「絶対美味しいやつですよね。それは」

「この一口のために、クラーケンを追っ払うんだ。海を守るって任務もあるが」


 そのクラーケンですが、魔王と一緒に食べましたけど。大丈夫だったのでしょうかね。


「少し焼き過ぎでは?」


 かなり、焦げ目がついてしまったようですが。


「炭火なら、これくらいがちょうどいいんだ」


 大根も、これくらいで十分だそうです。


「よし、できたぜ」


 サンマの塩焼きが、完成しました。はああ。早く食べたいですね。


 畳の間に移動して、いただきます。


 大根おろしをサンマに乗せて、おしょうゆを、っと。


 ソナエさんが、おひつに入ったライスと、替えのお茶を用意してくれました。「残り物で悪いが」と、お漬物まで。


「お世話になります。では、いただきます」


 サンマを大根とともに……。


罪深うまい!」


 焦げ目のついた皮と一緒に食べるサンマの身が、泣けるほどに罪深うまいです。

 これをご飯で追いかける。いやあ、脂って人を幸せにするために生まれてきたんですね。


「あたいも、いただきます……」


 ちょっと。頭からカブリつきましたよ、この人。


「ああ、もう厄払やっべえぇ!」


 理性を失っています。


「頭って食べられるんですか?」

「硬いから、やめときな」


 言いながら、ソナエさんはサンマを頭ごとバリボリ食べてますけどね。


 完全に嗜好の世界だそうで。ならば、普通に食べますか。


 オーソドックスにいただいても、変わらずおいしいですね。


「これは、上等なサンマなのでしょうか?」

「いや。ごく普通に家庭に出回っている、普通のサンマだよ」


 それなのに、七輪で焼いただけでここまで変わるとは。


「フライパンで焼くには、コツがいるんだよ。サンマは」


 肝を食べながら、ソナエさんはお酒を飲みます。


「くあー。やっぱサンマは肝だな。脂の乗った身も最高だが、味を決めるのは肝だぜ」


 飲みながら、笑ってますよ。


「確かに、この苦味はクセになりますね」


 甘いお芋を頂いた後なので、余計に苦み走った肝の味わいが見事です。


 わたしはご飯で頂いていますが、もう三杯目でした。


 お漬物を間に挟みながら食べるサンマも、オツなものです。


「ごちそうさまでした」

「ああ。おそまつさま。今度は、あんたんところのメシを食わせてくれよ」

「はい。ぜひ起こしください。エマも喜びます」


 大酒飲み同士のエマなら、きっと満足させてあげられます。

 

 教会に帰ると、シスター・エマが焚き火をしていました。


「おかえりなさい。今、お夕飯に焼き芋をしようとしているのよ」


 エマたちシスターは、燃え盛る炎の中にお芋を放り込もうとしていました。


「お待ちを! 落ち葉が完全に炭状になってから、お芋を投下です!」


 アドバイスをして、無事にお芋を保護します。


「どうしちゃったのよ、クリス?」

「焼き方を教わってきたのです」


 せっかくだし、ウル王女にもおすそ分けしましょうかね。

 あの方のお店なら、おいしいスイーツにしてくれそうです。


 さて、その前に追いデザートと行きますか。


(焼き芋とサンマ編 完)

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