ハニートーストは、罪の味?

「はい、なんでしょう?」


 わたしが承諾すると、カメラマンさんが身を乗り出してきました。


「話したいことがあるのよ。あの娘なんだけどね」


 耳打ちしてきたカメラマンさんは、エルフメイドさんにも来るように言います。


 エルフさんは、ちょこちょことテーブルまで来ました。


「相談に乗ってもらいましょうよ」


 カメラマンさんは、切り出します。


「え、でもご迷惑じゃ」

「だったら、本人が直接迷惑だって言うわ。話すだけ話してみましょうよ」


 カメラマンさんの説得に、エルフさんもうなずきました。


「この娘ね、厨房担当のバイトくんが好きなの。このオムライスも、彼が作ったのよ」


 おおお、恋愛相談ですか。


「うーん、色恋ですかぁ。わたしでは、お力になれませんよ?」


 恋愛と言えば、シスター・エマの案件ですね。実際、彼女のカーテンだけはピンク色で、恋愛相談を専門に取り扱っています。


「当たり障りのないことくらいしか、言えません。それでよければ」

「いいのいいの、女の相談なんてね。話している段階で半分は解決しているんだから」


 言われてみれば、そうですね。女子は問題の解決より、共感を求めるといいますし。


「では、お話ください」

「……彼、見た目は怖いんですが、仕事はしっかりしてくれるし、仲間へのフォローも欠かさないんです」


 厨房バイトのコックさんは、陰気ながら優しい一面があるとか。


 エルフメイドさんは、告白する勇気がないといいます。人と話すこと自体が、難しいそうで。


「それならどうして、メイドさんのバイトなんて」

「彼が働いているからです」


 職探し中に宗教の勧誘を受けたエルフさんを、コックさんが助けたらしく、そこから恋心が芽生えたとか。


「いい話よねぇ。何度聞いても泣けてくるわ」


 カメラマンさんが、ハンカチで目頭を押さえます。


「そうですか……。ただ待っているだけなのも、考えものですねぇ」

「やんわりとアプローチだけは、しているの。でも、マイナスに取られているみたいで……」


 相手のコックさんは、「自分に危害を加えようとしているかも知れない」と警戒しているようでした。


「だったら、いっそ当たって砕けてみては?」


 エルフさんは、ドキッとした顔になります。


「実直な方なんですよね? ただひたすらにヒットアンドアウェイをしていても、通じない相手なら、ストレートをぶつけてしまうほうが手かと」


 ああいうタイプは、探りを入れると逃げてしまう可能性が高いです。ならば、小細工なしで挑んだほうが痛みも和らぐかも、とアドバイスしてみました。


「え、でも、断られたら」

「お相手があなたをお嫌いなら、そうおっしゃるでしょう。でも、いいじゃないですか。お相手に見る目がなかったんですから。苦手な接客業からも、解放されますし」


 なにより、カメラマンさんも慰めてくれるでしょう。


「はい。素直に話してみます」


 エルフさんは、元気になったみたいです。


「ありがとう。お礼にハニートーストもあるから」

「重ね重ね感謝いたします」


 伯爵様、おかわいそうに。でも、この美味しさには抗えません。しっかりと堪能させていただきますね。


「いやあ、お話の通り大変美味しゅうございました」

「デザートも期待してちょうだい」


 カメラマンさんも、自信満々です。


「おまたせしました。ハニトーです」


 いよいよ、来ましたよ。


「うわあ、これはカロリーの姫ですねぇ」


 丸いアイスが、食パンの浴槽に浸かっています。その上から、ブルーベリーのソースとハチミツがかかっています。周りを囲むのは、ウエハースの旗といちごとバナナの石垣ですよ。


「では、いただ――」


「たしかに琥珀は土から掘れるが、あれは樹液だっつってんだろうが!」


 揉め事が、こちらにも聞こえてきます。

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