食べ物の恨み

「いいや! 強力な武器ができるんだから、あれは金属に該当する!」

「金型に入れて固めるだけじゃねえか! 打てないからつまんねーんだよ! あれは樹液だ!」


 うるさいですね……食事がマズくなります。


「また酒飲んでるのね。迷惑だわ」


 カメラマンさんも、顔をしかめています。ブラックコーヒーの苦味を噛み締めているわけではなさそうですね。


 聞くと、彼ら「鉄オタ」は、酒が入ると毎回口論になるそうで。


「あの、他のお客様のご迷惑になりますので……」


 エルフメイドさんが、止めに入りました。おとなしいのに、ムチャしすぎです。


「ああん!?」


 なんということでしょう! あのドワーフ貴族さん、エルフメイドさんを突き飛ばしましたよ!


 女性に手を挙げるとは、不届き千万。これはいけません。ハニートーストは後回しにして、加勢に入りましょう。


 そう思っていたら、厨房からダークエルフさんが出てきました……手に包丁を持って! メカクレの瞳は、怒っています。


「ひ! なんだお前、やるのか?」

「……あ」


 自分が手に持っている刃物に気がついたのか、メカクレの男性はテーブルにドンと包丁を置きました。


「で、出ていって、ください……」


 包丁の代わりに、言いたいことを言葉に出します。エルフメイドさんをかばいながら。


 その声に、わたしは聞き覚えがありました。ザンゲ室にて。今朝の相談者は、この方だったのかも知れませんね。


「なんだと!? 貴族に向かってなんて口を!」


 ドワーフの貴族が、コックさんを突き飛ばします。


 すごい力だったのか、コックさんは後ろに倒れ込みました。


「きゃ!」


 ガンッ、と、コックさんがわたしのテーブルにぶつかってしまいました。


 お皿がスライドして、ハニートーストが床に落ちます。


「あっ」


 楽しみにとっておいた食パンのお城が、無残に崩れ落ちていました。アイスも生クリームも、床にぶちまけられて……。


 あれだけウキウキしていた気分が、雪国のように冷たくなっていきます。



「大丈夫? クリスちゃ……ひいっ!」



 呆然とするわたしの顔を覗き込んで、カメラマンさんが悲鳴をあげました。



「貴族を相手に偉そうな口を叩くんじゃねえよ!」




「……本物の貴族は、そんな口調で語りません」


 わたしは、おもむろに立ち上がります。






 もう、我慢の限界に来てしまいました。

 食べ物の恨みは恐ろしいと、わからせなければなりません。

 わたしは、本格的に参戦と行きます。


「んだてめ……」


 わたしの気迫に圧倒されたのか、ドワーフさんは黙り込みました。



「表に出なさい」



 窓の向こうを、わたしは指し示します。


「はあ?」

「ここでは、他のお客さんのご迷惑になります。表に出なさい」


 わたしが言うと、ドワーフさんの額に青筋が立ってきました。


「上等だ! 女ごときが俺を止められると思ってんのか!」


 ドワーフさんは怒りながら、先に外へ出ました。腕を組みながら、わたしが来るのを待っています。


 振り返り、わたしはできるだけ優しい口調でコックさんに質問をします。


「コックさん、すいませんがハニトーのおかわりを作っておいて

ください。ワッフルくらいの小さいサイズってできますか?」


 聞いてみると、コックさんはうなずきました。


「お願いしますね。わたしはちょっと用事がありますので」


 わたしも、表に向かいます。


「大丈夫なの? 相手はドワーフよ?」

「平気です」


 ドワーフより怖い人に、訓練を受けたので。


「おまたせしました。どちらがお相手ですか?」

「なめやがって。引っ込んでろ!」


 ドワーフさんが、わたしに殴りかかってきました。


「ホアタァ!」


 なんてスローなパンチでしょうかね。片手で受け止められます。そのまま、地面に叩きつけました。


「な、なんてパワーだ!」

「あなたの力が弱いんですよ」

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