オタカフェで撮影

「はいクリスちゃぁん、笑顔ちょうだぁい」


 目一杯お化粧して、わたしはカメラに向かって微笑みかけます。手にパラソルを持たされながら。日傘なんて、室内に必要なのでしょうか。


「いいわよ~っ。いい感じねぇ、クリスちゃぁんっ」


 ストロボを炊きながら、カメラマンさんも満足してくれました。女性の口調でねちっこく話していますが、男性です。細身でガッチリして、胸元がはだけています。


 撮影所であるオタカフェは、貴族さんが利用するだけあってシックな雰囲気でした。とはいえ、それは店内の装いだけです。


 客層は、オタクカフェというだけあってマニアックな方々ばかり。


「おいしくなあれ。モエモエ、きゅ~んっ」


 ミニスカメイドさんたちが、貴族さんのご子息たち相手に接待をしています。オムライスに、おいしくなる魔法とやらをかけています。もうおいしそうなんですけれどね。


 接待と言えど、お触りなどのハードプレイはご法度だそうで。違反すれば、出禁になってしまうそうですよ。


 貴族さんたちも、落ち着いた感じでした。誰も、横柄な態度を取りません。


 それもそのはず、このカフェは伯爵様がスポンサーとなって建てられたとか。伯爵はメイドさん好きでした。

 が、お家のメイドさんだけではできなかったらしく、この店をオープンしたそうです。

 合法的に「メイド服と」浮気ができると。


 カメラマンさんも、伯爵のお抱えの方だとか。


 わたしは今、その賑やかな雰囲気の中でモデルをやっています。


「素敵よ、今度はこの服を着てきてねん。これで最後にしましょ」


 お着替えも、もう三着目になりました。

 今度は学生服タイプのメイド服ですね。いろいろなバリエーションがあります。

 最初はオーソドックスな紺を。

 次は派手ーなピンクのミニスカですよ。

 なんなんでしょうね?


 それもこれも、すべてはハニートーストのため。


「最高! やっぱりクリスちゃんを呼んで正解だったわぁん」


「あの、本当にわたしでよかったのでしょうか?」


 従業員さん方のほうが、見栄えはすると思うのですが。


「他のメイドちゃんもカワイイんだけどぉ、色っぽすぎるのよね。職業柄、どうしても商売っ気が出ちゃうのよ。こびちゃうっていうかぁ。その点、やっぱりシスター様って清楚さがにじみ出てくるのよ。素敵」


 しみじみと、カメラマンさんは語ります。


「そうですか」


 わたしには、一ミリも理解できないのですが。乾ききっていますね。



 ひとしきり撮影も終わり、わたしの仕事は完了です。元のシスター服に着替えました。


「ありがとうクリスちゃん。どうかしら? よかったらでいいんだけれど、カメラの専属モデルにならない?」

「いえ結構です」


 こんな仕事は、一度で十分ですね。わたしは自分がかわいいとかは思っていませんので。


「じゃあさぁ、お見合い写真とか撮ってあげようか?」

「なおさら必要ありませんね」


 お見合いはいつかしないといけないんでしょうけれど、今はそんな気分ではありません。

 殿方を迎え入れることは、おそらくありませんし。


「クリスちゃん……ひょっとして百合なの?」


 衝撃の事実を知ってしまった! という顔をカメラマンさんがなさっています。


「そういうわけでは、ありませんが」


 なにを、勘違いなさっているのでしょう? わたしの恋人はゴハンです。


 エルフのメイドさんが、テーブルに来ました。雰囲気はおとなしめですが、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいます。理想的な体型ですね。


「あの……」


 ボソボソっと、エルフさんはカメラマンさんに話しかけます。


「そうだわ! 約束のごちそうよね? ごめんね、忘れていたわ」


 手をパンと叩いて、カメラマンさんが謝罪をしました。


 そうです。本来、これが目的でバイトを承諾したのでした。

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