ハニートーストは、罪の味 ~オタカフェのオムライスとハニトー~

本気の悩み相談

 ザンゲ室からこんにちは。シスター・クリスです。


 さて、今日の子羊はどういう人でしょうか?


「私は、人の幸せを望めません」


 その男性は、ボソッと声を発します。まるで、世界中の冷気をかき集めたかのような、冷たい声でした。


 わたしにしては珍しく、ちゃんとした悩み相談が来ましたね。


「私なんてモテないし、定職にもつけないし。私と同い年の男はみんな嫁をもらっているのに、皮肉屋だから結婚も無理です。私はただのオタクだし……」


 これはザンゲというより、愚痴ですね。


「つい最近だって、従業員が二人抜けました。結婚して店を開いてます。幸せそうにしやがって……」

「そうですかぁ……」

「今日もバイトなんです。毎日朝がくるのが、嫌で嫌でしょうがないです。また生きないといけないのかって」


『まあ、そう言わずに。誰にだって、いいところがありますよ』


 と言いたいです。

 

 が、じっとこらえます。

 愚痴をこぼしたいときは、常に砂をかじっている状態と同じ。


 心に溜まった膿は、吐き出させなければ。

 心の浄化はそれからです。

 まずは相手が聞く姿勢になってからでないと。


「周りも、ヒソヒソと私の悪口を言っているふうに思えるんです。厨房に立つと臭いとか、汚い手で料理を作らないでほしいとか、言っているようで」


 飲食業の方ですか。


 臭う人は、ザンゲ室からでも臭ってきますから。彼は、そんな陰湿な臭気は漂わせていません。さすがコックといった感じでしょうか


「えっとですね。あなたは今、幸せですか? どういうときに、幸せを感じられますか?」


 男性はしばらく考えた後、ポツリとつぶやきます。


「私は、他人が不幸になると幸せを感じます」


 仕事で誰かがミスをしたり怒られているのを見ると、ホッとするとか。


 ああ、これは重症ですね。


「ご自身が人にあたったりは、しませんか? ご家族とか、店員さんとか」


 悲しいかな、この世には「世間をけなすことや他人への攻撃が、生きがいになっちゃっている人」もいます。

 

 そういう人は、そもそもザンゲの心なんてありません。自分が一番正しいですからね。


 彼が悪口だと思っている内容も、ただの幻聴のように思えます。

 ここまで相手を気づかえる彼は、本当に嫌われているのでしょうか。


「いえ。それはさすがに。私も接客業なので、気をつけています。独り身で家族はいませんが、従業員とは、波風を立たせないようにしています」


 不幸になればいいのに、と思うだけで十分だと。


 人を攻撃しない分、まだマシかも知れません。が、やはり不調のようですね。



「自分が幸せでないと、他人の幸せを望めません」



「はあ……」

「幸せそうな人を嫌いになるとか、嫉妬したりとかありますよね? 誰だって、そういった負の感情は持っています」

「そうなんでしょうか」

「もちろん。わたしだって、コンプレックスのひとつやふたつはありますよ。胸の大きい子は絶滅しろとか」


 ザンゲ室で、クスリという笑い声がしました。多少はリラックスなさっているでしょうか。


「それでいいんです。劣等感やコンプレックスというものは、誰も持ち合わせています。だからといって、自分まで他人を見下すのは関心しない考えです」


 弱い自分を認めたくない、ダメな自分から目を背けたい。

 そんな気持ちが、相手への否定へ繋がります。

 相手の足を引っ張ることに、情熱を注いでしまう。

 それが自分がのし上がる手段だと勘違いして。


「しかし、他人への罵倒は必ずブーメランとなって返ってきます。相手に指摘するということは、自分が模範となることと同じ意味ですから」


 足を引っ張ったとしても、相手が自分のレベルに落ちることなんて稀です。自分の価値を下げるだけ。


 完璧な人なんて、この世にはいません。

 たとえシスターであっても、例外ではないのです。

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