ハンバーグの究極進化

 やられました。まだそんな隠し玉を持っていたとは。

 これ以上罪を重ねろ、と。シスターであるわたしに。


「お願いします」


 いいでしょう。まだお腹には余力はあります。


「あいよ。チーズいっちょう!」


 ドロッとしたチーズが、すぐに小鉢で運ばれてきました。


「ささ、ドバーってかけちゃって」

「はい。遠慮なく」


 なんたる、大胆なドレスコードでしょう! 白いチーズのヴェールをまとったことで、ハンバーグが究極進化を遂げました。


 まだ熱い鉄板の上に、チーズが接触します。プクプクと泡立って肉汁と融合を果たしました。


 こんなの優勝に決まっています。


「いただきます。ぱくっ……っ!」


 うわあああああ!

 罪深うんまい!


 思考が追いつきません!

 脳が溶けました!

 チーズの海に溺れていますよ。


 こんな犯罪的な料理を思いつくなんて。発想が罪です。


 口がチーズの糸を引きました。


 これをまたゴハンで追いかける。

 うんうん、これまた最高ですね。


「いっそロコモコにする?」

「ロコ、モコ、とは?」

「ライスの上に、ハンバーグと目玉焼きを乗せて食べるの」


 ぜいたくすぎる奇跡料理ですね。


「目玉焼きも乗せる?」

「はい!」


 聞けば重たそうですが、試さない手はありません。


「ダーリン、目玉焼きもー」


 数分後、目玉焼きがライスに着陸しました。


「ハンバーグと一緒に、潰して食べてみて」

「はい。やってみます」


 目玉焼きとハンバーグをスプーンで切って、ライスと混ぜます。下品に音を立てちゃっていますが、そういう食べ方なのでOKとのこと。


 だんだんと、卵と肉とチーズが一体化していきます。


 どんな化学変化が起きるのでしょうか。


 さて、まずは一口。おお……これは。


「ハンバーグとは、全然違う世界ですね」

「でしょ?」


 この罪深さは、ベクトルが違います。

 卵かけご飯とも、また別物でした。

 お皿を持ってかき込みたくなりますね。どこまでも下品を貫きたくなります。


「は~っ」


 カロリー爆弾なのに、ペロリといけちゃいました。こんな料理があったとは。世界はまだまだ、知らないことばかりですね。


 すべて食べ終わった後、コンスメスープを飲み干しました。


 優勝したのに、完全敗北した気分を味わっています。


「ごちそうさまでした」


 改めて、幸せは罪なのだと思い知りました。


 今日は自分で刈り取った命をいただくという、貴重な体験をいたしました。


「ありがとうございます。これで、わたしが倒したゴートブルさんも浮かばれるでしょう」

「え? このゴートブルって、お姉さんが倒したの?」

「はい。さきほど、依頼があって」


 わたしは、自分が格闘家であると告げます。

 教会のシスターであることは伏せておきました。


「ふーん。でもさ、それじゃあ計算が合わないね」

「どういうことでしょう?」

「これってさ、三ヶ月前の個体なんだけど?」


……あれ? 話が要領を得ません。


「あのー、どういう意味なんでしょう?」

「ウチはゴートブルを、冷凍保存しているんだよね。夫婦ともにエルフ属だから、魔法に長けているの」


 長期保存できるものは、魔法で凍らせて倉庫に蓄えているそう。


「で、では、今日食べたハンバーグは……」

「うん。他の冒険者が倒した奴だろうね」

「あ、あはは……」


 どうやら、これはわたしが倒したゴートブルさんではなかったようです。


「ありがとうございました。おいしかったです」

「こんどは豆腐ハンバーグも試してみて。またどうぞ~」


 シティエルフさん夫妻に、手を振ってもらいます。


 無理してゴートブルさんをやっつける必要は、ありませんでした。


 急いで討伐することはなかったのかというと、そうでもありませんし。無益な殺生だったとは思いません。必要な討伐だったと思うことにします。


 わたしのやっつけたゴートブルさんは、数カ月後に誰かを優勝へと導くのでしょう。


                                

(ハンバーグ編 完)

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