ゴートブルのハンバーグ

「これだけの腕があったなら、モメたのでは?」

「ちゃんとオタカフェとは、お話を通しましたよ! 円満退職ってなもんで!」


 店主が、カウンターから身を乗り出しました。店主も、見た感じではチャラ男さんです。


「旦那さんは、本物のダークエルフさんっぽいですね」

「そうそう。ウチも間違えられるんだけど、ただのシティエルフなの」

「そうなんですか? だってお肌が」

「え? これ日焼けだけど?」

「日焼け!?」


 エルフって日焼けするんですね。知りませんでした。


「ほら、ちゃんと日焼けっしょ?」


 シャツをはだけ、エルフさんは惜しげもなく肩紐を外し始めました。

 すべすべの柔肌が、あらわになります。おお~っ。


「ホントです。日焼けですね」


 小麦色の肌に、水着のヒモラインがくっきりと残っています。


 肌質から、紫外線に弱いのではと思ったのですが。ヘルトさんなんてずっとローブを羽織っていますよ。


「夏ですからね。やはり海でバッチリ焼いたんですね?」

「ううん。日サロで焼いた」

「日サロ!?」


 魔法で弱めた人工太陽で、肌を焼く施設です。本来なら、皮膚の雑菌を殺す設備なのですけどね。


 この奥さん、自然光だと肌が赤くなってしまうのだとか。

 で、程よい紫外線を浴びたのだそうです。


「紹介しようか、日サロ?」

「いえいえ。わたしは遠慮しておきます」


 日焼けしたシスターなんて、聞いたことがありません。やんわりと断ります。


 こんがり焼けた肌を見ていると、なんだか無性にハンバーグが食べたくなってきました。お腹も限界です。


 そう思っていたら、ハンバーグが香りを連れてやってきましたよ。


 おお、ジュージューと鉄板で音を立てていますね。これは期待できますよ。


「大きいですね」


 思わず、ため息が漏れました。


 分厚くて、ふっくらしています。これは最高ではないしょうか。これ以上ない存在感です。


「独特の香りがしますね」


 牛肉の他に、マトンの香りも多少しました。


「ゴートブルだからね。ささ、冷めないうちに」

「いただきます」


 極厚ハンバーグに、ナイフを通しました。こういう調理器具やイミテーションの刃物なら、我らシスターでも扱います。武器がダメなだけで。


 おお、無抵抗です。すっとナイフが入っていきました。

 ハンバーグとはいえ、実がしっかりしすぎていると力が入るものですが。


 切れ目を入れると、ミンチの間から油とともに肉汁が溢れてきました。もうこれだけで、罪ですね。


「さっそく……」



 ああ。これは、罪深うまい……。



 ミンチなのに、弾力があります。デミグラスの酸味が肉汁と口の中で溶け合って、マイルドに仕上がっていますね。


「これは、ライスでお迎えしたいです」

「はいよライスいっちょーっ!」


 まるで大衆食堂のノリで、エルフさんは店主に呼びかけます。


「おまたせ、ライスねー」


 ライスがお皿に盛られました。これこれ、これですよ。


 あと、小さいカップに茶色いスープが。これは頼んでいませんが?


「えっと、これは?」

「コンソメスープ。サービス」


 まだまだ開業して間がないので、色々試して検証をしているのだとか。


「ああ。どうも」

「コーンスープか、ポタージュのほうがよかった? いつもは曜日で変えるんだけどさ、出そうか?」

「いえいえ。ごちそうになります」


 さっぱりした、コンソメスープです。舌を休ませるのに、ちょうどいいです。


 さて、ライスを口へお迎えする準備は整いました。まずはハンバーグを含んで、さっそくフォークで、と。


「はむ。う~んま!」


 正解を引き当てましたよ。ライスとハンバーグが、新婚さんいらっしゃいです。


 ライス、肉、ライス、肉。

 時々コンソメ、肉、ライス。

 

 幸せのバージンロードです。ずっと噛み締めていたい。


 残り四分の一になったところで、奥さんがストップをかけます。おあずけでしょうか?


「仕上げにチーズで、とろけさせちゃう?」

「チーズ!」

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