カピバラ温泉

 その後も、カピバラさんは争いつつもスイカをかじり尽くしました。

 九〇キロの巨体は、跡形もありません。   


 エサやりタイムが終わったら、温泉でプールです。

 わたしたち全員、競泳用のスクール水着に着替えました。


「ねえクリス、この水着、ちょっとキツい」


 園児たちにはやや刺激的過ぎる光景が、目に飛び込んできます。


 スイカップが、デンと水着を引っ張っていました。


 わたしの冒険者仲間であるヘルトさんは、釣鐘型でGカップです。あまり運動をしておらず、全体的に柔らかいですね。


 対するエマは、半球型のFだと自称しました。

 どう見ても、それ以上の可能性がありますが。

 体を鍛えているので、体型が引き締まっています。健康的なエロスといえるでしょうね。どっちにしてもエロスですが。


「その水着で駄目なら、あなたは何を着せても窮屈でしょうね」


 わたしは無心になります。考えないようにしましょう。


「仕方ないわね。ここで園児相手にビキニを着るわけにもいかないし」


「やめなさい。そんなことをすれば、男の子たちが早熟になってしまいます」



 ほらあ。センシティブ過ぎるシスターエマを見て、男児たちが湯船に腰を沈め始めたじゃないですか。

 身体の一部が膨張してしまったのですね。

 本人たちも、なぜこうなったのか疑問に思っていることでしょう。

 実に罪深いボディです。


「それもそうね。ガマンするわ」

「はい。人間、あきらめが肝心ですよ」


 身体を清めることが温泉の目的ですが、基本は遊んでもOKです。我々は、遊びに来ました。


 なんといっても、ここはカピバラさんと一緒に泳げる温泉なのです。


 といっても、ガラス越しですけれど。


 ガラスの向こうでは、カピバラさんがうっとりした顔で湯船に使っています。

 こちらを見ているのか、見ていないのか。

 頭に乗せたオレンジまでかわいいですね。


 園児たちも、カピバラさんの泳ぎをマネしたりと楽しそうにしています。


「こっちを見て」と、園児たちはガラスを叩きました。

「カピバラさんはおやすみしているから、そっとしてあげましょうね」


 わたしは、静かにたしなめます。


 ですが、興奮したのはカピバラさんの方でした。

 なんと一匹が、ガラス製の柵を飛び越えてしまったのです。


「わー」「きゃー」


 園児たちも、大パニックです。はしゃいでいる子もいれば、プールから脱出する子もいます。


 さらに三匹ほど、プールに乱入してきました。


 あれだけワイワイ言っていた子どもたちが、恐怖で言葉を失います。


「落ち着いてね、みんな! はあっ!」


 シスター・エマが、カピバラさんに精神操作魔法をかけます。



 言葉が通じない動物相手に苦戦しているようですが、なんとか精神を安定させることには成功しました。


「あたしの指示が聞けないっての!? 黙って持ち場につきなさい!」

 

 ビクッと、カピバラさんが我に返ります。トボトボと、持ち場へと戻っていきました。


 さすが元ヤン、相手の心を掌握する術には長けているようです。


 あそこまでいくと、もはやシスターよりサキュバスですね。


 ですが、二匹が限界のようでした。 


 ひとりの少年が、カピバラとにらめっこ状態になって棒立ちに。


 カピバラさんが、少年の前で前歯をむき出しにしました。これは威嚇のポーズだとか。


 これはまずいです。


「クリス、そっちはお願い!」

「はい、お任せを!」


 わたしは、カピバラさんの背後に回って、背中にあるツボを撫でます。


 事前に教わった、「カピバラさんが寝ちゃうツボ」を、優しく押します。


 暴れていたカピバラさんが、目をつむってわたしに体を預けてきました。


「わー、寝ちゃった」


 園児たちが、不思議なものを見る目でカピバラさんを見つめます。


 ぐっすり眠ったカピバラさんを、わたしはヒョイと担ぎました。


「おとなしくしててくださいねー」


 不快にならない程度に持ち上げて、ガラスの向こうに回り込みます。どうにか温泉へと戻してあげました。


「でも、もう一匹いましたよね?」

「こっちよ!」


 カピバラさんを精神誘導していたシスター・エマの背後に、エロげっ歯類が。エマに興味を示しているようですが。


「なにをしているんですか、あの方は!?」


 エマを見る目つきが、実にいやらしいです。


「あの先生のおっぱいを、スイカと間違えているようです」


 そんなメチャクチャな。


「あっ!」


 なんと、エマの着用しているスクール水着のヒモを、噛みちぎります。

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