半玉スイカは、罪の味

「きゃあ!」


 バルン! と、エマの北半球があらわになってしまいました。


 なんと業深エロい。


 これでは、飼育員さんも前かがみにならざるを得ません。手がふさがる形に。


「今、助けます。とう!」


 悪いカピバラさんを、エマから引き剥がします。


「園児の皆さん、シスター・エマの代わりに手を貸してください!」


 わたしは、園児たちに呼びかけました。


「さあさあ、カピバラさんを温泉まで誘導してくださいねー」


 よちよちと歩かせて、カピバラさんを温泉へ連れていきます。


 わたしの呼びかけに応じた園児たちも、カピバラさんのオシリを押して温泉へと向かいました。


「はい、ドボーン。よくできましたねー」


 パチパチと、わたしは園児に拍手を贈ります。


 こうして、どうにかカピバラさんパニックは収まりました。

 

 

 

「ひどい目に遭ったわ」



「すいません、ありがとうございました」


 進行役のお姉さんから、お礼を言われます。


「さすが武術家ですね。カピバラのツボを、あんな簡単に見つけ出すなんて」

「いえいえ。園児たちが無事で何よりです」


 おとなしい動物といえど、げっ歯類ですからね。 

 刃物を持った車両と同等と思っていていいでしょう。

 ケガなどになったら、二度とココに来られないかもしれません。





 プールから上がると、飼育員さんたちがスイカをくれました。こちらはちゃんとおいしいスイカだそうです。


「遊びに来てくださったお礼と、危ない目に遭わせちゃいましたことのお詫びです」


 切り分けられたスイカが、我々の前に置かれました。


「ありがとうございます。みなさん、いただきましょうか」

 みんなで神様に祈ります。

「いただきます」


 園児たちが、スイカをほおばりました。カピバラさんのようにケンカなんてしたりしません。仲良く分け合っています。

「カブトムシにあげるから皮をくれ」と、周りに頼んでいる男の子もいますね。


 わたしたちの分のスイカは、ありません……。


 当然です。園児たちを差し置いて、自分たちが食べるなどありえません。


「落ち込まなくても、先生方の分もありますよ。こちらへ」


 わたしとエマは、別席に呼ばれました。子どもたちには見えない席へ。


 何も知らない子どもたちは、キャッキャと種飛ばしで遊んでいます。


「余り物ですが、どうぞ召し上がってください」


 飼育員さんが用意したのは、丸いままのスイカでした。園児たちにあげた分より、やや小ぶりです。半分だけ割って、わたしとエマの前に置きました。


 ワオ、期せずして半玉スイカをゲットしてしまうとは! 小さいですが、女の子が食べるなら十分です。


「こんなにたくさん、いいんでしょうか?」


 本来なら、子どもたちのほうが喜びそうですが。


「糖度の低いスイカで、いうほど甘くないんですよ。それに子どもたちだと、こんなに食べられませんからね」

「我々からの、ささやかな気持ちでございます」


 ならば仕方ありません。


 お言葉に甘えて、スプーンを差し込みます。


「いただきます」


 シャクと、いい音が口の中で鳴り響きました。



 ああ、これは罪深うまい。


 たしかに甘みは薄いです。


 が、半玉を独り占めしているという独占欲を、これでもかと掻き立ててくれていますね。


 これだけでもぜいたくぜいたく。セレブ食いです、これは。


「うわあ、素敵」


 シスター・エマも、同じように罪を噛み締めています。セレブ食いを楽しんでいました。


「大きさも丁度いいわね」

「はい。これなら、全部食べれちゃいます」


 スプーンが止まりません。スイカの島を攻略し続けます。


 こんな大きなものが、シスター・エマにも詰まっているのでしょうか。


 だんだん、憎たらしくなってきました。ガンガン食べちゃいましょう。


「ごちそうさまでした」


 最高のぜいたくですね。


「まだまだ、これからですので。ご用意しますね」


 なにか、隠し玉があるようです。なんでしょう?

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