独り占めするスイカは、罪の味 ~カピバラと食べる、スイカ半玉独占~
笹食ってる場合じゃねえ
今日は教会に通う幼稚舎の子どもたちと、遠足です。
ちびっこたちを、動物園に連れてきました。生き物と触れ合うことで、慈しみの心を学んでもらうことが目的です。
未来の神父やシスターたちが、キリンさんやゾウさん、トラさんなどを見ながら、ハシャいでいました。
「懐かしいです。何年ぶりでしょうね、シスター・エマ」
「うーん、あたしはあんたよりだいぶ後から入ってきたから、一〇代を越えていたわ」
同僚のシスター・エマは、赤毛のツインテールをピョンピョン跳ねさせながらわたしの隣を歩きます。
「その頃には、動物に関心なんて示さなくなっていたわね」
「我が教会きっての、不良でしたものねぇ」
ですが、今は園児たちの明るい表情に微笑むくらいの慈愛や優しさが溢れていました。
「せんせー、パンダって、『ささくってるばあいじゃねえ』ってばあいもあるの?」
一人の園児が、シスターエマを捕まえて質問してきました。
「え、ごめんなさい。ちょっと何を言っているのかよくわかんないわ」
エマは仕方なく、同行している飼育員の先生にヘルプを求めます。
「そうですね、パンダは元々クマの仲間ですが、年中笹を食べているおかげで冬眠しなくていいといわれています。だから、そんな常に焦っているわけではないでしょうねー」
「へえーっ」
質問攻めになりながらも、飼育員のお姉さんは先導を続けました。
「そうそう。パンダは笹だけではなく、肉食でもあるんですよー。ヒツジさんを食べたりしたこともありますよ」
「えーっ!」
園児より、同僚のシスター・エマのほうが驚いていました。
「す、すいません。続けてください」
我に返ったエマが、黙り込みます。
「えー、笹を食べている理由は、パンダは他の肉食動物と争わないためとも言われています。ですが、エネルギー吸収効率はたった一七%なんです。実はアレだけ食べても、ほとんど体内に吸収されないのです。だから、大量に食べる必要があるんですね」
飼育員のお姉さんはまったく気にせず、パンダの説明を続けました。
雑食なわたしには、パンダさんのような粗食然とした生き様は不可能でしょうね。
園児が楽しみにしているのは、カピバラさんにスイカをごちそうする「餌付けコーナー」です。
そしてなにより、今日の目玉はジャンボスイカ! その重量はなんと九〇キロを超えます。
木製の柵の向こうでは、カピバラさんたちがスタンバイしていますよ。
「よいしょ、よいしょ」
スイカを担ぐ係は、わたしとなりました。他のシスターだと、押しつぶされてしまいますから。
「九六キロのジャンボスイカを片手かよ……」
動物園の飼育員さんたちが、スイカを肩に担ぐわたしを見て言葉をなくしています。普通は、成人男性二人がかりで運ぶ代物ですからね。
「珍しいですかねぇ? 軽いから持ち上がると思うのですが」
「そんな芸当ができるシスターなんて、武闘家職も兼任するあんたくらいよ」
エマに、呆れられます。
「あなただって、野菜の乗ったコンテナを肩に担いでいるじゃないですか」
「なによぉ。あたしはせいぜい四〇キロくらいよ? 九〇キロ以上を持ち上げられるシスターなんて、アンタくらいのものよ」
「コンテナを両肩に担いでいるじゃないですか、あなたは!」
そうはいっても、飼育員さんはわたしを心配している素振りはありません。エマのことばかり気にかけています。
やはり顔ですかね? 赤毛をツインテに結んで、形の良いバストをゆっさゆっさとさせているのがいいのでしょうか。
カピバラさんも、エマのプロポーションに見とれているように見えました。
スイカはこっちですよカピバラさんたち。
「みなさーん、これよりエサやりタイムです」
わたしは、肩に担いでいたスイカを地面にゴロリと置きました。
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