罪と罰

「先程は失礼いたしました。こちらジュースのおかわりは、サービスです」


 店主さんが、オレンジジュースのおかわりをくれました。


「ありがとうございました」


 いやぁ、最高です。冒険の疲れが吹き飛びました。


 こうしてまた、わたしは節制に励めそうです。


 教会に帰ると、庭で煙が上がっているではありませんが。

 なにがあったのでしょう!?


「火事」の二文字が、わたしの脳裏をよぎります。わたしがいない間に、火の手が上がったのでしょうか?


 その割に、街は平和ですね。


「あ、クリス! やっと帰ってきた!」


 扉に手をかけようとすると、同僚が血相を変えてお出迎えにきました。


 なんの騒ぎでしょう? まさか、豪遊がバレた!? どこかで情報が漏れるなんてことは!


 うーん、心当たりが多すぎます。とはいえ、彼らが口を割るなんてことはないでしょう。わたしは、仲間を信じます。


「どうなさったんです?」

「大変よクリス! アンタの分のジョオウタケ、なくなっちゃったわよ!」


 聞き捨てならない単語が、わたしの耳を打ちました。


「え、あるんですか、ジョオウタケ?」

「庭先でシスターたちが集まって、キノコバーベキューをしているわ」


 話を聞き、わたしは飛んでいきました。


 キノコの焼けた香りが、鼻をくすぐります。


 シスターたちは、キノコを串で堪能しながらうっとりした顔になっていました。シスターとキノコ、背徳的な絵面ですね。


 まさか。こんな貧乏教会とは、ご縁がないと思っていたのに。


「実は、騎士が使うポーション作成の依頼を受けて、ジョオウタケをおすそ分けしてもらったの」


 表向きは、キノコを使ったハイポーション開発だそうです。ですが、薬品に使える部分以外は焼いて食べてしまっていいと、お達しが来ました。


 つまり、「高級食材をタダで食わせてやるから、タダでポーションを作れ」と。


「まったく。悪徳貴族がやりそうなことよね」


 ジョオウタケは、ないですね。


「ごめんね、クリス」


 同僚になぐさめてもらいます。


 彼女たちを責めることは、できません。普段から節制を強いられている上に、育ち盛りですもの。


 わたしは、ガックリと腰から崩れ落ちました。


「濃厚ミルク味の、キノコ……」

「そうよね。ショックは大きいわよね。あなたが退治して採ってきたキノコですもの」

「残ってないんですよね?」

「ええ。早く食べないと、傷んじゃうらしくて」


 ジョオウタケは魔力供給で動いています。

 そのため、供給源から離されると保存が利かないんですって。

 干物にしてポーションの素材にする部分以外は、その日に食べるしかなかったそうです。

 でないと、カビ臭くてまずくなったチーズのような味わいになってしまうとか。


 ですが、わたしは悟ります。


 これは、罰なのだと。一人で食べ歩きをしているこの愚か者を、天は見過ごすわけがないのです。


「いいのです。みなさんで召し上がってください」

「クリス! いじけなくても」


 わたしがひがんでいると、同僚は思っているのでしょう。


 でも、わたしは首を振りました。これは自分が悪いのです。


「よいのです。わたしはわたしで、自分で埋め合わせをしますよ」


 罰は、甘んじて受けましょう。


「そうはいっても、ジョオウタケがリスポーンする場合、早くても三ヶ月後よ? ボスクラスだから、それくらいかかるらしいわ」


 再度、わたしは首を横に振ります。


「ジョオウタケだけが、キノコではありません」


 わたしは今日、幸せになるキノコを堪能しました。純喫茶でも、金持ち以上の体験ができるのです。これは、新たな発見でした。


 足るを知る。いい言葉ではありませんか。


 なるほど! これが世間に言う「ざまぁ」なんですね? 「ざまぁ」が、こんな身近に潜んでいたとは! 


「うんうん、ざまぁざまぁ。罪深い罪深い」

「どうしちゃったの、クリス? ショックすぎて頭が……」

「ウフフ。なんでもありません。ではおやすみなさい。残りのキノコも、皆さんでどうぞ」


 満たされているわたしは、バーベキューの輪に加わらずに床へつくのでした。



(キノコグラタン編 完)

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