廃墟食堂でスケルトンの作るチャーハンは、罪の味

「腹ごなしにもなりませんでした」


 まったく、労働者から金を巻き上げようとは、とんだ悪党ですね。


「おケガは?」


 ワーキャットさんに、声をかけます。


「ありません。あの、ありがとうございます」

「いえいえ、『出前ニャン』の方々には、我々もお世話になっていますから」


 我々修道女には、「月に一度だけ、何を食ってもいい日」があります。そんなときは、出前ニャンでピザやお寿司を頼むのが恒例となっていました。


「すいません。近道しようと路地に入ったら、運悪く」


 ゴロツキに因縁をつけられてしまったと。


「困ったときは、お互い様です。では、これにて」

「あの!」


 去ろうとしたら、ワーキャットさんに声をかけられます。


「今からお昼ごはんなんですよね? もしよろしければ、ごちそうさせてください! あなたは命の恩人です!」

「いえいえ。わたしは当然のことをしたまで。あなたが稼いだお金は、あなたのものです。大事にお使いください。では」


 あんなゴロツキくらい、盗賊の討伐依頼で何万人も倒してきました。三人蹴散らした程度で、お礼などされても。


 あーおなかすいた。早く行かなくちゃ業務に支障をきたします。主に空腹的な意味で!


「あの、オイラ、ゴロンって言います! これ名刺です!」


 少女から、名刺を受け取りました。


「市民カードにメールしてくだされば、いつでもかけつけます。お取り寄せだってなんでもござれなんで」


 食事代もただにしてくれると言ってくれましたが、お断りいたします。わたしは進んで罪を犯しに行くのです。罪を意識するためには、対価を払わねば。


 とはいえ、お店がありませんね。


「なにかお探しですか?」

「チャーハンのおいしいお店です。この辺りだと聞いたのですが」


 どこを見渡しても、路地しかありません。どこで、道を間違えたのでしょう?


「それ、あっちの隣の路地です! オイラあっちに戻ろうとしていたので!」


 お会計を渡しに行くというので、わたしもゴロンさんについていきます。


「ここです!」


 案内してもらったのは、ボロボロのお店でした。


……すごい佇まいでした。一見すると廃墟です。


 本当に、ここが美味しい店なのかと思うほどの。営業しているのかさえ謎でした。が、入り口から中を覗くと、たしかに営業しているみたいです。


「ごめんください」


 店内に入りました。


 床もツルツルです! 料理油が、店中に飛び散っているのでしょう。話に聞いたとおり、昼間からお酒を飲んでいる人がチラホラ。


 ですが、わたしは知っています。こんな店こそ、とんでもなくウマイ店なのだと。


 ゴロンさんは、これからまた別店舗の出前に向かうそうです。


「道案内、ありがとうございます。くれぐれも、路地には入らないように」

「はい! 本当に、ありがとうございました!」


 ワーキャットさんと別れを告げて、食事といきますか。


「キクラゲ入りのチャーハンを一つ、くださいな」

「あいよ!」


 スケルトンのごとくガリガリに痩せた店主が、鍋を振ります。卵の後に、お米を鍋にぶちまけます。


 やせすぎというか、この店主、本物のスケルトンですね……。


 魔物の中には、社会に溶け込んで日常生活を送る者もいるとか。まったく人類に害を与える気もなく。


 メニューを見ると、ラーメンもありました。ご自身で、ダシをとりそうですね。この店は実際に、廃墟なのかもしれません。


 え、一瞬で味付けがからまった! いつの間に調味料を入れた? 格闘の心得があるわたしでさえも、見えませんでした。


 まあ、店主の正体当てに夢中になっていたからなのですが。


 時々おたまで調味料をチョンと足しながら、スケルトンの店主はチャーハンを黄金色に染めていきます。


「へいまいど、おまち」


 早い! きっちり三分でできあがりました。なんという早業でしょう。


 わたしのお腹の虫が、キュルルと産声を上げました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る