『出前ニャン』のワーキャット
昼食時になり、わたしは寮に戻ります。
なるべく地味目の服にお着替えしてキャスケット帽をかぶれば、カンペキ労働者風少女ですね。変装完了です!
「あらシスター・クリス、お出かけ?」
おっと。同僚とバッタリ鉢合わせてしまいました!
「これはどうも。お昼ですか?」
「ええ。外へ食べに行くの? 一緒にどう?」
「この間に行った、お粥のお店ですか?」
「そうよ」
この子たちなんかと行ったら、きっと精進料理的なお食事が待っています。
それでは満たされません。
たしかに彼女の勧めるお粥は、おいしいんですけれど。
今のわたしは、チャーハン腹なのです!
「わたしはこれから、罪深い者がいるかどうか、パトロールに行ってまいります。食事はその後に取ろうかと」
シスターの身でありながら、わたしは敬礼をします。
「でも、お一人じゃ危ないでしょ。付いていきましょうか?」
「一人で大丈夫です!」
シスターはダンジョンに入ることも多いので、モンク職として戦うことも多いです。
魔力が穢れてしまうので、刃物は扱えません。
しかし、徒手空拳や鉄球付きの鈍器くらいなら持つこともあります。
もっとも、ダンジョンでの役割はほとんどヒーラーで、武術も自身の純血を守るためなのですが。
「まあ、クリスなら大丈夫だとは思うけれど」
「むふーっ」
中でもわたしは、モンスターが強い地域出身でして。
それなりにトレーニングを積んでいます。
ゴロツキや低級モンスター程度なら勝てます。
「非戦闘員であるみなさんをお守りしながら戦うほうが、正直厳しいので」
「わかったわ。お気をつけて」
「行ってまいります!」
また敬礼して、わたしは同僚にお詫びします。
さて、店を探そっと。
「たしかこの路地ですよね? えっと……」
路地に入ると、三人組のゴロツキがタムロしているではありませんか。
一人の少女から、お財布を抜き取ろうとしてました。
被害者は見たところ、ワーキャットです。
赤い清潔なTシャツとキャップ、ベージュのロングパンツ姿ですね。
あの少女の格好は。
「ほお、『出前ニャン』の方でしたか」
少女は、出前持ちのようですね。
空になったおかもちがありますから、間違いありません。
これはまた、巨漢のゴロツキに道を塞がれてしまいました。
「ぐへへ。おチビのお嬢ちゃん、ちょっくら俺たちと付き合わねえか?」
口から、お酒の臭いがしますね。すっかり、出来上がっています。
邪魔ですね。今日のわたしは、気が立っています。お灸をすえて差し上げましょう。
「お腹に溜まったお酒を床にぶちまけたくなかったら、道を開けなさい」
特に構えることもせず、わたしは三人に凄みます。
やはりというか、ゴロツキ共はゲラゲラ笑い出しました。
「傑作だ! 俺たち相手にやりあおうってよ! バカじゃね?」
「バカはそちらです。悔い改めなさい」
わたしは、三人には見えない速度で、巨漢の側面に回り込みます。軽く指をひねってやりました。
「あっででででで!」
握った手の甲を爪の先で押し込んだだけで、巨漢はうずくまってしまいます。
「ふざけやがって!」
そばにあった角材をつかみ、やせっぽちのゴロツキがわたしに殴りかかってきました。
脚の甲を、踏んづけてやります。
「あっぐ!」
角材を放して、やせ男が脚を抱きしめながら飛び跳ねました。
もうひとりも、わたしに飛びかかろうとします。
が、わたしは巨漢を盾にして相手の進撃を食い止めました。
「これ以上痛い目にあいたくなければ、去りなさい」
「や、やろう!」
わたしの制止を聞かず、男は突撃してきます。見たところ、格闘家崩れのようですね。
「哀れな。彼に救いの手を」
わたしは巨漢から手を放して、格闘男の拳をかわしました。
「フェイントもクソもない、真っ向勝負だと!?」
首筋にトン、と手刀を打ちます。
「あなたを倒すのに、フェイントなど必要だと思っていたのですか?」
格闘男が、白目をむいて倒れました。
「ひいいいい!」
圧倒的な戦力差を見せつけられてか、三人は脱兎のごとく逃げ出します。
最初からそうしていればいいものを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます