神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一部 罪深さを求めて

ダブル炭水化物は、罪の味 ~廃墟食堂でスケルトンの作るチャーハン~

チャーハンは、罪の味

「これは、罪深うまい!」


 パラパラのお米と、それをサポートする具材のコントラストがたまりません。

 シャキシャキのネギ、引き締まったチャーシュー、そして絶妙な絡み具合の卵が、手を取り合っていますね。

 具材は、たったこれだけ。なのに、こんな深みが出るとは。

 

 添え付けのスープも、うれしいです。温まりますね。


 ここは場末の大衆食堂です。

 わたしは、ここのチャーハンがおいしいと情報を聞き、仕事を抜け出して食べに来ました。

 

 いやはや、大当たりです。

 変装してまで、食べに来たかいがありました!


 しかし、なんという罪深さでしょう。

 

 わたしは店主の処遇をいかようにすべきか、悩んでいました。


 このパラパラチャーハンのお米みたく、思考がバラけてまとまりません。


 なぜなら、店主はスケルトンだから。


「うまいものを食べてもらいたい」という一心で、彼はこの地にとどまっているのでした。

 もちろん、毒なども入っていません。ただただ、おいしいです。

 彼は、何ひとつ悪いことはしていません。



 しかし、どういたしましょう。

 

 わたしは、アンデッドの浄化を使命とするシスターなのです……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おはようございます、シスター・クリス」


 後輩の修道女たちが、わたしに声をかけてきました。


「ごきげんよう」


 わたしも、笑顔で返します。


「本日もよろしくお願いしますね」


 わたしがみなさんに声をかけると、後輩たちは「はいシスター」と返事してくれました。


 後輩とのあいさつを終えたわたしは、教会の外で掃き掃除をします。


「おはようさん、クリスのねーちゃん!」


 冒険者さん一行が、わたしに声をかけてきました。


「みなさん、おはようございます。今日は戦闘ではないのですね」


 わたしは時々、彼らとダンジョンを回ったりするのです。

 今日はお役御免のようですね。


「ああ。採取だ。食材用のキノコと、ウサギを取ってくる」


 大剣を持った冒険者さんが教えてくれました。 


「今日もお美しいですね、シスターは」


 引き締まった身体の女性シーフさんが、わたしを褒めてくださいます。


「いえいえ。みなさんには及びません」


 よかった。夜中に二軒隣のラーメンを食ったことは、バレていないようですね。


「またダンジョンに潜ることになったらよろしく」


 冒険者さんは、採取ミッションに向かいました。


「はーい。また次回」


 手を振って、わたしはお見送りします。


「シスター、交代のお時間です」

「はーい」


 迷える子羊に神の声を届けるため、わたしは今日も懺悔ザンゲ室に向かうのです。


 人が二人入るとキツキツの箱に、わたしは身体を沈めました。


 おっ、さっそく迷い人が入ったみたいですよ。 


「迷える子羊よ、お入りなさい。神はすべてを赦してくださいます」

「お願いします」


 女性の声ですね。


「あなたは、どんな罪を犯したのですか?」

「実は、ダイエットに失敗してしまいまして」

「ほほう」

「ランニングをしていたときです。やけに古びた定食屋を見つけてしまって」


 なんでも、いい香りにつられてホイホイ入ってしまったとか。そのときはちょうどお昼時で、市場も賑わっていたそうです。


「店に入ると、お昼からエールで始めてらっしゃる方もいまして」

「なんと罪深い……」


 わたしはお酒を嗜みませんが、みんなが働いている中で飲むお酒というのは、さぞおいしいのでしょう。実に罪深い!


「せっかくなので、私も一杯ひっかけてしまいまして」


 ひっかけるんかい!


「鹿肉とからめた、野菜炒めをおつまみに」


 この罪人めえ!


 わたしのお腹が鳴ってしまいそうじゃないですか!


「そこのキクラゲ入りチャーハンが、それはもう絶品でして」

「その話詳しく!」 


 思わず壁をぶち抜かんばかりに、わたしは身を乗り出してしまいました。


「あの……」

「し、失礼しました。続けなさい」


 神に仕えし者が、壁ドンしてしまうとは……。わたしも、修行が足りませんね。


「きくらげチャーハンは、あの店の看板メニューでして、抗うことができず」

「わかります。適度に油の乗ったチャーハンとは、罪の味です」

「ですよね! 酒のシメに合うんですよ!」


 相談者もノッてきました。


「米はパラパラで、全然パサパサしてないんですよ、卵もふわってして、具材もシャキシャキしていて」


 ああ、もうガマンなりません。


「ザンゲは……なさらなくて結構です!」

「え!?」


 相談者が、驚きの声を上げます。


「その代わり、お店への詳しい道のりをメモなさい。書けたら、この壁の隙間に差し出すのです」

「は?」

「穢れは、あなたから発せられてはいません。その元から絶ちましょう」

「え、店を潰すおつもりですか?」

「とんでもない!」


 思わず、大声が出てしまいました。

 いけません。これではわたしの正体がバレてしまいます。


「そのお店に出向いて、祈りを捧げましょう。きっと煩悩を断ち切れるはずです!」

「は、はあ、なるほど。ありがとう、ございます」


 紙が、わたしの元に差し出されます。

 


 お店につながるメモを、ゲットしました!

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