スケルトンチャーハン実食

「いただきます」


 神に祈りを捧げ、レンゲで米をすくいます。


 ウワサどおりのパラパラですね。ではお口で迎えて差し上げましょう。



「ん~~~~~~~~~~~~~っ!」




 これは……罪深うまい。

 


 生まれてきたこと自体が、罪です。存在がもう罪。

 砕けてしまいそう。これは許されません。


 この味を知ってしまったわたしは、このスケルトンのように白骨化しながらも生きなければならないでしょう。


 脂っこいのに、まったくしつこくない。小エビと刻んだブタ肉とのアクセントも、最高です。


 付け合せにはスープが。どんな味なのでしょう。レンゲでいただきます。


 溶き卵とコンソメのバランスが、塩辛さを程よく抑えてくれていますね。舌を休めるどころか、より食欲を掻き立てる味ではありませんか!


 チャーハンの手が止まりません。ブレーキが壊れた右手を思うままに動かし、わたしはチャーハンをかき込みます。誰も取ろうとしていないのに、加速する手が止まりません。


 チャーハンをモグモグしながら、もう一品くらい頼んでみようかなと考えを巡らせます。


 メニューに目を通すと、「大盛りできます」の文字が! ああ、そっちもありましたか。余裕でしたね。


 デザートは、揚げ団子ですか。なるほど、そっちにいくのもアリですね。


「オヤジ、塩焼きそば」


 ドワーフらしきおっさんが、一品物をオーダーをします。


「あいよ」


 スケルトンの大将が、鍋を振り始めました。


 調理の音に耳を澄ませます。鍋のカチャカチャという音が、実に心地よい。もうそれだけでごちそうです。


「ほい、塩焼きそばおまちどう」


 白い焼きそばが、ドワーフさんの席に置かれました。ドワーフさんはエールでノドを鳴らしつつ、塩焼きそばをズルズルっとすすります。ああもういい顔! あの顔がもう、「ウマイ!」って言わしめているではありませんか!


 抗うことができません。抗う理由すら、見当たりませんでした。


「すいません。わたしも塩焼きそばを」

「あいよ!」


 その間に、このチャーハンを崩しにかかりましょう。


 もう、どこを食ってもウマイです。涙すら出てきそうになりました。


 場末の路地裏に、こんなおいしいお店があるとは。誰にも知られず、ひっそりと。


「はいお嬢さん、塩焼きそばね」

「どうも」


 食べかけのチャーハンの隣に、塩焼きそばがデンと鎮座しました。キャベツやニンジン、モヤシなど、野菜多めです。でも、これくらいがうれしい。


 これはまた、贅沢な組み合わせです。ダブル炭水化物。それは禁断の味。されど、この誘惑に誰が抵抗できるのでしょう?


「いただきます」


 改めて神に感謝いたします。ダブル炭水化物祭り、いざ。


「ズルズル……うーん。大正解です」


 焼きそばを少し食べてから、チャーハンで追いかけます。ちょっとしたそばめし感覚です。


 悪いことをしている。わたし今、不良です! 罪人です! 咎人です!


 なんとでもお言いなさい。笑いたければ笑うがいいです。


 わたしはもはや、罪に罪を重ねるブタです!


「これはなんでしょう? 辛味調味料ですか」


 辛いお味噌のようですね。こちらも試してみましょう。


「うっわ! 辛!」


 思わず手を止めます。でもよりおいしくなった!

 辛さが、塩焼きそばの中に溶けていきます。

 胸が熱くなってきました。

 カプサイシンとかいう成分の効果でしょうか?


 あーこんなの、戻ってこられなくなります。


 ドワーフの飲兵衛さんが、「ごちそうさん」と去っていきました。


 店内には、わたしと店主さんがふたりきり。

 いえ、レジ打ちの方もいますね。

 マネキンみたいに何も話しませんが。



 食器を洗う音と、塩そばをすする音だけが、店に響きます。


 わたしは、塩そばとチャーハンを同時にいただきました。

 なんというカップリング。

 口の中で、炭水化物同士が結婚式を上げましたよ!

 

 塩焼きそばは、おかずにもなるなんて。新発見です。


「お嬢さん」


 スケルトンのオヤジさんが、声をかけてきました。




「あんた、あっしを浄化しに来たんじゃねえんですかい?」

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