プロローグ3(後編)

【茉莉花】

「放送部は仮の姿……実は私、軽音楽部なの」


【柾】

「軽音楽……そんなのあったっけ? 軽音楽部って吹奏楽と違って、バンドやるやつだよな」


【桧】

「私の記憶違いでなければ、現在ある学園のクラブ活動として登録はされてないかと。少なくともここ数年は存在しないはず」


【茉莉花】

「ウン。だって部員は私ひとりだからね。当然、学園の公認じゃないわけ。ずっとずっと昔は活動があったらしいんだけど」


【柾】

「(ずっと昔……?)文化系クラブなら二人以上在籍で学園公認がギリ貰える。部費は小学生の小遣い程度、部室に至っては※日当たりの悪い倉庫みたいなトコロしか割り当てて貰えないが……」

※新聞部の部室のこと


【桧】

「この薄暗い狭さが私は好きですよ。秘密基地みたいで」


 なぜかその点、桧と楓は意見が合致していた。

 女性はもっと清潔感がある空間を好むものだと思っていた柾にとってはそれが意外だった。

 まあ、新聞部なんていうワケわからんクラブに所属している時点で変わり者なのは間違いない。


【楓】

「私は英田がどうしてもって頼むから入ってやったのよねぇ……部員か……それこそ、放送部を取り込むとかさ? そんなことしなくても先輩なら友達多そうだからなんとかなりそうなもんだけど?」


【柾】

「俺は一言もそんなこと言ってないけどな。ま、それはいいとして、つまりはその辺の理由に今回の件が関係ある、と?」


【茉莉花】

「そゆこと❤ さすが英田君、理解が早くて助かるわ」


【柾】

「回りくどく勝手に難解にしたのはそっちな気がするが……で、軽音楽部の復活に力を貸せって?」


 桧は柾の問いに頷きながら、茉莉花を見た。

 ちょっと寂しそうな、懐かしそうな? そんな目をする茉莉花。


【茉莉花】

「一年前ならそれもアリだったかな……」


【楓】

「今は違うの?」


【茉莉花】

「青春は二年生までよねぇ……三年生になると、なんか、急に大人になることを強要されるカンジ」


【柾】

「……」


【茉莉花】

「このままじゃなんか悔しいって言うか、もったいないっていうか。青春のアツイ思い出、ひとつくらい作りたいじゃん?」


【楓】

「言いたい事はよくわかるんだけど、それが私たちにどう関係するの?」


【柾】

「まさかバンドやろうぜ的な流れじゃあるまいな?」


【茉莉花】

「それも少しは考えたけど、いくら何でも時間なさ過ぎ~。私たち、出会うのが遅すぎたのよ……」


【柾】

「さらっとラ○ァみたいに言うな」


【桧】

「あなたは突然すぎたんです……ン……コホン。なんでもないです」


 しばし微妙な空気が流れる。

 空気が読めない代わりに空気を一変させることに長けた楓が口を開く。


【楓】

「そもそもバンドって学校でやるもんなの? ほら、なんだっけ、駅前とか、ライブハウスとかでやるのは知ってるんだけど。ん? 茉莉花先輩ってバンドで何やる人?」


【茉莉花】

「基本ボーカルだけど、作詞作曲、なんでもやるよ~♪」


【柾】

「まじか。すげえな」


【楓】

「ボーカルって歌う人だよね? えっ? えっ? 先輩が歌うの? ボーカル! やだ格好いい! どんな曲歌うの? 聞かせて欲しい。すっごく聞きたい!」


【桧】

「私も是非。でも、そこまで出来て一人で出来ない事とはいったい……」


【柾】

「そこよな」


【茉莉花】

「今はさ、パソコンとネット……ううん、スマホが一台あれば誰でも歌い手になれちゃうわけ。もちろんネットは厳しい評価も来るけどねー。そこでヘコんでたってしゃーないし、悔しさをやる気に変えて頑張ってるのだよ、わっはっは!」


【柾】

「イカレた性格だと思いきや前向きポジティブお姉さんだなあ」


【茉莉花】

「ありがと❤ おねえさんに惚れるなよぅ? で、ま、そんな感じで昔から音楽をやってきたわけ。でもふとね、誰かの為に曲を作ったり、歌ったりすることを経験してみたいなぁ、なんて思っちゃって」


【柾】

「それまでが自分だけの為だったってわけでもないんでしょ?」


【茉莉花】

「もちろん! 音楽って『感情』を伝えるためのものよね。人の気持ちが知れない人間に想いが伝えられるはずがない。だからこそ誰かの為の曲を作る経験は絶対に必要かなって」


【柾】

「言いたい事はよくわかるよ」


【茉莉花】

「私ね、歌うのも好きだけど、詩を書いたり曲を作るのも大好き。自分の中にある思いが譜面。それを伝える手段が旋律。そして聴いてくれる人がいて初めて音楽になると私は思ってる」


【楓】

「なんか……格好いい……❤ 意味はよくわかんないケド!」


 自分の理解の及ばない事はすべてカッコイイと思うのが神目楓。そう、純粋。別名おバカ。


【桧】

「誰かのため……つまり、プロデュースしたいという意味でしょうか?」


【茉莉花】

「さっすがヒノッキー、早い話がそういう事~♪」


【楓】

「(プロデュース……? って、なんだっけ……なんか聞いたことあんだけど……なにか作る人だっけ? 英田も八束さんも理解してるっぽいところに何?って聞くのは躊躇われる……バカだと思われちゃう……それはヤダ!)」


【柾】

「待て待て……俺たち新聞部をプロデュースしたいから、あんな糞めんどくせえ罠を仕掛けたとか言うんじゃあるまいな?」


【茉莉花】

「それ以外の理由あるぅ~? キミたち新聞部はみんな個性派揃い。前々から楽しいこと一緒にやりたかったのよねえ~」


 薊学園新聞部は、不定期に校内新聞を発行する集団である。そうすることで学園側から部活動として認められ、部室と部費が宛がわれる。

『うんどうかいレポート』でもやっているなら可愛げもあるが、ゴシップ丸出しの『そういう噂がある』的な事を適当に記事にするものだから、生徒はおろか教員にまで大層評判が悪い。

 中には核心を衝く記事もあるのだが……人によってはその傍若無人さが好きなのかもしれない。だが、最近はネタに窮しており、仕方なく新聞部の顧問でもある女教師、建部稲穂たけべ いなほの写真(同意なしのほぼ盗み撮り)を掲載したところ、それはもう驚くほど販売部数が伸びた事から、ビッグビジネス到来を予期している。

 さらには、誰と誰が付き合っているだの二股かけてるだのを突き止め、その記事を該当者に部数ごと買い取らせるといった総会屋みたいな事もやっているが、それはまた別のお話。


【柾】

「じゃあ最初からそうお願いしろと。なあにが『夜な夜な怪しい撮影会』だ。(俺の股間を無駄に早らせやがって)」


【茉莉花】

「エー、だって、こうでもしないと絶対に断るでしょう?」


【柾】

「まあ、断るが」


【茉莉花】

「ほら~、やっぱり!」


【桧】

「そこまで見越した上で……お見事です、先輩」


【楓】

「いやいや、ヒノキー……そりゃそうかもしれないけど、先輩の要求を拒めそうにない立場よ、私たち?」


【茉莉花】

「ヒノッキーの性格からして、自分に火の粉はふりかからないと思ってるハズ。それはどぉ~かなァ~? げへへへ……(ゲス顔)」


 悪っるい顔を浮かべる福城茉莉花。


【桧】

「はあ……そうですか(ドキドキ……ちょっと楽しみ)」


【柾】

「なるほど……わかったよ、福城先輩。こんなプライドと身長だけが無駄に高い新聞部の女どもだが、事ここに至っては仕方ない、耐え難きを耐えようじゃないか。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


【楓】

「なにひとりで逃げようとしてンのよ! アンタ部長でしょ、責任者でしょ?」


【柾】

「俺なんぞが表に出てするような事ァなにもねーだろ。なあ、先輩?」


【茉莉花】

「それはどぉ~かなァ~? げへへへ……(ゲス顔2回目)」


【柾】

「俺は歌も下手だし楽器も出来ないもの。エラソーに言うだけのモブ雑魚ナメクジ。活躍するのは最後の最後だと運命づけられた哀しい星の下に生まれて来たんだよッ!」


【茉莉花】

「英田くんには英田くんの使い道があるんだけど、どーしてもヤだっていうなら、ちょーっとだけ、例のカノジョ貸して! そこらへんのアイドルより可愛いあの子がいれば……げへへへへ……(ゲス顔3回目)」


【柾】

「俺に彼女なんぞいねえよ」


【楓】

「ちょっと先輩、紫苑はダメよ。あの子、英田のためだったら本当になんでもしちゃうところあるから……」


【桧】

「……」


【茉莉花】

「んじゃあ、まずは実行犯の楓ちゃんに、オネーサンからオネガイ聞いて貰おうっと❤」


【楓】

「……なんか私だけ罪が重い扱いになってない? ちょ、ちょっとあんたら、なんで頷いてるのよ?」


【柾】

「神目って酷い目に遭うのがサマになるっていうか、似合うっていうか」


【桧】

「魅力的な泣きぼくろがそうさせるのでしょうか……」


【楓】

「えっ? えっ? えええええっ!? ……私、あっさり仲間に売られたっぽいんですけどーッ!?」


【茉莉花】

「違う違う。2人は私が楓ちゃんに酷い事なんて出来ないのわかってるから冗談でああ言ってるの」


【楓】

「そ、そうかなあ……」


 当の二人はそっぽを向いたまま呟く。


【柾】

「こういう時はやはり神目なんだよな……切り込み隊長というか、先駆けというか……度胸が据わっているもの」


【桧】

「私に少しでも神目さんのような覇気があれば……いえ、あの人は私のような無感情ロボットとは違う。美しい赤毛はまるで魂に火がついた姿を具現化したよう……」


 口々に神目楓を神輿に乗せワッショイワッショイ。

 端からそんな光景を見る茉莉花はも思わず引かざるを得ない。


【茉莉花】

「(悪っるい奴らやなぁ……)」


 なんだか恥ずかしそうにモジモジし始める神目楓。

 悩んで悩んで、一度大きく頷いた。


【楓】

「しゃーない、こうなったら私がやるしかないでしょ。神目の楓さんを舐めんなってぇ話よ!」


【柾】&【桧】

『(よし!)』


 神目楓はチョロかった。


【楓】

「だいたい、弱みを握って脅すってぇやり方が気に食わない。ウチらに何かをやらせたいんだったら、そこの馬鹿じゃなくてまずはこの私、新聞部のエースに相談するのが筋でしょ。それがこんな回りくどい……まったく」


【柾】

「(あいつ、さらっと自分をメインに置いたぞ。思春期故の病かおい。知ってはいたが、図々しさと身長のデカさに関しては誰にも引けを取らないな)」


【桧】

「(神目さんのいいところじゃないですか。ああいう前のめりな素直さが私にもあればよかったのですが)」


【茉莉花】

「(この悪っるい2人にもそのうち何かさせよ……)ああ、よかった~❤ 楓ちゃんと一緒にやりたかったのよねえ~」


【楓】

「そこまで言われると照れちゃうんだけどさぁ……まっ、頼られるのは嫌いじゃないっていうかー。で、で、なにすんの? どうせ先輩の手伝いしろって言うんでしょ? プロデュース? 業務用みたいな!?」


【茉莉花】

「それはプロユース。やっぱ楓ちゃん面白いわ~……そんな楓ちゃんには放送部の裏チャンネルに出演してもらいま~す♪」


【柾】

「そんなのあるんか……」


【茉莉花】

「これから作るの❤ 新聞部、放送部、そして軽音楽部が協力して、まずは資金集めよ! 世の中金よ! お金がなければ何も出来ないの!」


【桧】

「道理ですね。なるほど……そのための出演……裏チャンネルと言うからには、表向き出来ない事もやる、と?」


【茉莉花】

「イェース!」


【楓】

「……ちょっと待って、聞いてた話と違う! 出演? エロいのヤダっ! 絶対やだぁあ~っ!」


 自分を抱きしめモジモジ涙目の楓。


【柾】

「(あいつ、最近なんでもすぐエロに結びつけるな。奄美の影響だろうか? それともなんか嫌な思い出でもあるんかな?)」


【桧】

「(それはあるかもですね。奄美さんと神目さん、ああ見えて相性いいですから)」


【茉莉花】

「エロいのなんてやるわけないでしょ~(やるケド! うひひ❤) 出演ってのはラジオ。ラジオDJをお願いしたいの」


【楓】

「はあああああ!? ラジオDJ!? わ、私、DJっていうキャラじゃないと思うんだけど……どっちかっていうとJKだし……ちょっと! 今『プッ』って笑ったの誰? ブッ殺されたいの?」


 ゲシッと太ももに楓の蹴りを食らう柾。


【柾】

「なんで俺が蹴られなきゃいけないんだよ……(笑ったのは八束だぞ。無表情で関係無いですみたいな顔しやがって!)」


【茉莉花】

「DJはだめぇ? ターンテーブルでキュッキュやるあれじゃなくて、ラジオパーソナリティの方だよ? トーク中心。ダメならMCという手も。マスターオブセレモニー、基本的には進行役ね」


【楓】

「DJが駄目ならMC(エムシー)? なにそれ……あっ! またヤラしいコト言ってるでしょ、私が知らないと思って。男がシコシコするやつしょ、知ってるわよ!マスターベーションくらい。馬鹿にしないでっ! ……えっ、違うの? ……まじ?」


 テンパっているからなのか、神目楓の知識が思ったより浅かったからなのか、それはさておき、茉莉花は楓にアレコレ説明を始めた。

 イキって「やる!」と宣言してしまった以上、引くに引けないのが女の矜恃。


【楓】

「うん……ウン……質問に答えて……たまには相談に乗ったり……うん、よくあるやつね。それはわかる。たまにゲストが来る……ゲスト?なんで? はあっ!? 罰ゲームぅ? なんで罰ゲーム!? これ自体罰ゲームじゃん!? ちょっと先輩、お腹抱えて大爆笑しないでくれる?どこでツボったのよ、まったくわけわかんない!」


【茉莉花】

「始めは緊張するだろうから、顔出し無しで行くからだいじょーぶだよっ!」


【楓】

「なにが大丈夫なのよ……あとで顔出しするの決まってるようなモンじゃないそれ……」


【茉莉花】

「顔出しNGぃ?」


【楓】

「NGとかそういうのじゃなくて、ドコの誰に見られるのかわからないなんてハズいじゃん……ああ、見える、見えるわ!『あの女デケー!』とかいう心ない書き込みが! 好きでデカくなったわけじゃねえってェのよ」


【茉莉花】

「そりゃそっかー。私、昔から顔出してやってたからそのへん疎くて。あっ、楓ちゃんは絶対に人気出ると思うよ? ほんとモデルみたいなスタイルだもん!(……黙っていれば、だけど)」


【楓】

「先輩のそういうおだてには乗らない! モデルってのは八束さんみたいなカッコイイ人がなるの。どーせ私なんか……私なんか……ぅぅ……」


 楓が勝手にネガ墜ちしてなにやら呪詛をかましている中、柾がふと気付いて茉莉花に尋ねた。


【柾】

「……先輩って顔出してやってたの? ネットとかで配信してたんだよねえ? よく今までバレないというか、気付かれずにいたなあ」


【桧】

「そういえばそうですね。今まで一度もそういう話、噂、耳にしたことがありませんでした」


 部長が引っかかったであろう箇所に、更に踏み込む桧。


【茉莉花】

「衣装だし、メイクもするからね~。意外と気付かれないもんよ?」


【柾】&【桧】

「……」


【茉莉花】

「基本はラジオ、声だけだからね? 顔出しするのは、楓ちゃんを気に入って支援してくれた人にだけ。誰にでもってわけじゃないから、その点は安心して」


【楓】

「ほんとう? でも、でも、私を気に入る人なんてたぶん、いない……」


 数年に一度か二度訪れる神目楓のネガティヴモード。

 しかしそこは茉莉花お姉さん、手練れである。得意の口八丁で、楓を自己啓発本を初めて読み終えた後のごとく無駄なやる気を引き出していく。

 そんな2人を、柾と桧は遠巻きに見ていた。

 自分たちには関係のない事だ……とは考えておらず、むしろ福城茉莉花の強引な手法の裏になにか謎めいたものはないか気になった。

 今のところ裏表のない明るいお姉さんではあるが……

 ポリポリ頭を掻きながら、目を細め難しい顔をしている柾を桧は横目で垣間見る。

 最近は彼の表情で何を考えているかわかるようになってしまった。もちろんそんなこと、誰にも言わないけれど。


【桧】

「……で、先輩。その資金集めの先にある目的とは? それがわかれば神目さんも判断しやすいかと」


【茉莉花】

「もちろん、曲を作る! まずは楓ちゃんのテーマ曲!」


 茉莉花の発言に、柾と桧がハッと気付いたように驚いた。


【柾】

「ほっほぅ! まさかまさか、そこに帰結するか~! 持ってンなぁ先輩は。そして神目も」


【桧】

「テーマ曲……ああ! 図らずとも繋がってしまいましたね」


【茉莉花】

「?」


【楓】

「ちょ、ちょっと! 2人でなにわかったような事言ってンの? どゆこと?」


 ……時は"薊学園放送部潜入作戦"撤退時に遡る。


 ぽわんぽわんぽわん~♪(入)


【楓】

『「テーマ曲! 私、ハズいけどキャットスーツ着るから自分のテーマ曲欲しい~! 女スパイがカッコ良く脱出するカンジ! 最後はドカーン!って爆発を背にカッコ良く歩いてくるの。ドヤ顔で! アレがいい、アレ! かっこいいもん!」』


 ぽわんぽわんぽわん~♪(戻)


【楓】

「そ、そういえば言ったかも……てゆーか、確実に言った……自分のテーマ曲欲しい……って。いや、欲しいケド……爆発を背景に歩いてきたいケド……」


【茉莉花】

「ほうほう、そんなことが! あっ、言っておくけどおねえさんはソコまで考えてなかったよー? いやー、楓ちゃんと私、やっぱ相性いいのかなー? もう付き合っちゃう~?」


 茉莉花のボケをノールックでスルー。楓は何やら考え込んでいる。

 そんな二人を見て柾は立ち上がる。


【柾】

「神目も先輩も、やりたいことが見事に繋がったわけだな! いやー、よかったよかった! あとは若い二人に任せて八束、メシ行こうメシ。そのあとはラブなホテルの見学会としけこもうぜ」


【桧】

「制服で大丈夫ですかね……? ……じょ、冗談ですよ、神目さん」


 バンと!机を叩きながら立ち上がった楓の気迫に押される一同。

 覚悟を決めた女の姿はいつだって美しい。

 急に真面目、シリアスな楓。


【楓】

「で……うちらにこんなコトをさせる『本当の目的』は何? 私がテンパってるの見て楽しむつもり? そんな悪趣味な人じゃあ……ないわよね」


【茉莉花】

「いま言ったことが殆どだよん。ちょっとだけ、まだナイショもあるけど」


【柾】

「……」


【桧】

「……」


【楓】

「なによ、まだナイショって。今は素直に従うけど、あんま変な事ばっかするようなら降りるかんね!」


【茉莉花】

「へんなこと?」


【楓】

「い、いや、だから……その……変な事……え、えっちな、事とか? そういうの、なんていうか……恥ずかしいし……」


 急激に乙女モードを発動する楓。

 そんな楓を愛おしそうに、かつニヤニヤ見つめる茉莉花。


【楓】

「うっわ、めっちゃニヤニヤしてる! この人ぜったい変な事たくらんでる!! ちょっと、先輩! マジでハズいのヤだかんね!? ちょっと聞いてる、茉莉花先輩!」


 颯爽と新聞部の部室を出ようとする茉莉花。

 そんな折、突っ伏して寝ていた奄美花梨が突如としてピョコンと起き上がる。


【花梨】

「えろはー?」


【茉莉花】

「えろは無い! (表向きは、ね……ムフフ)」


【花梨】

「おやすみぃ……」


 へなへなと再び眠りの世界へ落ちていく花梨。もはや軟体である。

 逃げるように去って行く茉莉花。

 見送るだけの新聞部。


 そんなこんなで、新聞部と放送部(軽音楽部)の共闘がこれより始まる。




 初めての共同作業、その名は『神目楓レイディオ』――



                   (ミライ202X プロローグ 終)

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ミライ202X 三宅蒼色 @miyakeaoiro

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