プロローグ3(前編)
某月某日、薊学園。
カラッと晴れた日の放課後、新聞部の面々が部室に集まった頃、放送部部長の福城茉莉花が現れた。
【茉莉花】
「クソガキどもー、おるかー? まりかお姉さんが来てやったぞー」
思春期男子の部屋をノック無しで問答無用に城門突破してくるオカンのような登場っぷり。
【柾】
「どえらい挨拶で登場したぞおい。あれで可愛くなけりゃ最悪だぞ」
神がごとき態度に恐れおののく新聞部。
話し合いというのだから、放送部の面々も一緒かと思いきや、どうやら一人の様子。
対して新聞部は、部長の英田柾を筆頭に、いつもの二本柱(身長的な意味で)楓と桧。そして、机に突っ伏して寝ている花梨の四人で迎え撃つ。
【茉莉花】
「あ~。あの子たちはねぇ、ホンモノの放送部なの。だから今回の件にはあんま関係ない。撮影や録音には協力して貰ってるけど」
【柾】
「ホンモノって……つまり先輩は偽者って事? いやいや、学園の活動名簿にゃ、ちゃんと部長で登録されてたような。なあ八束?」
【桧】
「それは間違いなく」
学期終わりに更新される部活動名簿。つまり直近で春先には茉莉花は、放送部の部長として登録されていた。
【茉莉花】
「放送部は部員が足りなくて廃部寸前だったの。だから人数合わせに名前を貸してあげてる。代わりに、イロイロとね❤」
【柾】
「放送部は誰も存在を知らないような部活だったしなあ……ウチ(新聞部)も似たようなもんだが」
柾は言ってから、神目楓に視線を移した。
【楓】
「一年の時に私と英田が入部しなきゃ新聞部って無くなってたかんね」
【桧】
「……つまり放送部はデコイ《おとり》と」
【茉莉花】
「どっかに所属していた方がいろいろ楽だからね~。ヒノッキィ⤴もそうなんでしょ?」
【桧】
「ピノッキオみたいに言わないでください。私はここに好きでいますから。妙な事を仰るんですね、先輩は」
【柾】
「まあこんな便利キャラがウチみたいな最下層にいるのは疑問に思ってた。ひょっして八束……」
【桧】
「……」
【柾】
「……俺に惚れてるな?」
【桧】
「バレましたか……」
【茉莉花】
「おほっ! 盛り上がってきたじゃない、どうすんの楓ちゃん? どーすんのッ?」
【楓】
「な、なんで私がどうこうしなきゃいけないわけ? なに言ってンの先輩。ちょっ……こういうときだけ目を覚ますな! ニヤニヤするな」
奄美花梨が急に目を開き、ニヤニヤ楓を見つめる。
そのまま机に押しつける楓……
【茉莉花】
「あー、やだやだっ! ここ、青春の匂いでむせるわー! むせる~!」
【柾】
「なあ、先輩。ワケわからん事をわざわざ言いに来たんじゃないんだろう? ……そろそろ話、始めようぜ」
言葉とは裏腹に、ニヤニヤが止まらない福城茉莉花。女はいつでも色恋沙汰に目聡いのだ。
【茉莉花】
「あら、イケメンが先に逃げたか……まあいいや。みんな揃ってるみたいだし、本題に入ろっか」
冗談はここまで。
それぞれが少し緊張の面持ちで福城茉莉花を見つめた。
・・・
・・
・
【茉莉花】
「実は私……呪いをかけられているの。この身は世を忍ぶ仮の姿……」
歌劇のように手を拡げ、そして自分を抱きしめる茉莉花。
【柾】
「よし、おまえら帰るぞ。メシいこうメシ」
【楓】
「あー緊張して損した。ポテト食べたい~。英田オゴって、ナゲットセットで」
【桧】
「……お二人とも、先輩の性格をよく考えてください。これはジャブですジャブ。ここからが本題ですから……ね、先輩?」
席を立とうとした二人をなだめる桧。
【茉莉花】
「さすがヒノッキー。私のカノジョにしたいくらいラヴリーだわ。女の子に興味ある?」
【桧】
「多少は……(女の"子"?)」
【茉莉花】
「あぁん❤ さすが新聞部、いい子揃ってるぅ♪」
【柾】
「そうだろうそうだろう。どいつもこいつもルックスはそこそこだが、暴力的で性格が悪いのが玉に瑕だがな。うん……痛いぞキミたち、足を踏むんじゃない」
【楓】
「んで、どんな呪い? っていうか前から気になってた事、ひとつ聞いてもいーい?」
【茉莉花】
「エッチな質問は事務所NGだけどいいよー」
軽いボケを華麗にスルーして、楓は茉莉花のネクタイピンを指さした。そこにはクロスのタイピンが輝いている。
薊学園は生徒のネクタイ着用が必須。学年毎に違う色で、一目で何年生かわかるようになっていた。
ネクタイピンに関して規定はないが、制服購入時に付いている物を使う生徒が多いようだ。その点、茉莉花はルールに縛られないロックな女性だった。ポイントポイントにクロスのアクセサリを纏う。
【楓】
「それって十字架じゃん? 茉莉花先輩はヴァンパイアハンターかなんかなの?」
【茉莉花】
「そうそう! 平安京でエイリアンぶっ殺してたのがウチのご先祖サマでぇ……」
【柾】&【桧】
「(ふっる……)」
【茉莉花】
「そのついでに吸血鬼なんかもバッサバッサと! これはその一族のシルシ……ってそんなワケ無いがな! がっはっは!」
完璧なノリツッコミを見せた茉莉花を、桧だけが無表情のまま高評価を与えていた。狼に育てられたような無表情女だが、お笑いは好きだった。
【柾】
「だんだん先輩の事がわかってきたぞ。突かれたくない所はボケて逃げるタイプだな」
【楓】
「あんたもそーじゃん」
【桧】
「いやらしい事を言って、すぐにはぐらかすんですよね」
【柾】
「そんなわけあるか。俺はいつもいつも正直に生きてるだろうが。男なんだから異性をいつもいつもイヤらしい目で見るのは当たり前だ。お前らみたいな無駄に背が高く色気のない女でもな! 種保存の法則って奴だ。合ってるか知らんけどな!」
【楓】
「まぁた、いっぱい喋ってる……ぷぷぷ(笑)」
【桧】
「まあまあ、神目さん。エラソーに言うクセに割と腰抜け部長はさておき、先輩の話を伺いましょう」
【柾】
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」
女相手に口喧嘩。男は挑むだけ無駄なのだ。
因みにこの二人、女子の平均身長を優に超えるモデル体型。下手に手を出そうものなら、その恵まれた肉体からの反撃により、そんじょそこらの男子くらい床ペロ余裕だったりする。
【茉莉花】
「キミたちと話してると楽しいなあ❤ でも、話が長くなりそうだから、簡単に説明するね?」
【柾】&【楓】&【桧】
「(最初からそうすればいいのに……)」
・・・
・・
・
(後編へつづく)
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