ノースフォレストのサンタクロース

宝輪 鳳空

〜☆☆マイキーのクリスマス☆☆〜

 ある夢の世界、深い森に囲まれた北の村〝ノースフォレスト〟に住むものたちがいます。


 ここにもクリスマスがやってきます。

 子どもたちはこの季節になるととってもいい子にしています。

 それはサンタさんが見ているから。



 サンタさんは見ているよう、いい子にしてるか見ているよう、プレゼントを持ってね。

 パパやママは微笑んで言います。


 村のみんなが楽しみにしてるクリスマス。

 北からの風にのって、聖なる一夜が今年もやってきます。


 ****


「雪だ……」


 クマのマイキーは雪が大好きです。

 小さい頃からサンタさんが大好き。

 ずっと信じてきました。

 やんちゃでいたずらっ子のマイキーも、この季節はおとなしくていい子です。


 マイキーも少し大きくなって、もう十五回目のクリスマスです。



 マイキーは言いました。

「ぼくは今度は何をもらえるかなぁ、手袋がいいな。ぼくの手は大きくなって、今持っているのはちょっときついんだ」

 するとお友達のウサギのラビィが笑いました。

「おいおい、おれたちもう子どもじゃないぜ。サンタからは何もないさ」

 ウシのモーリィも笑いました。

「まさかまだ信じてたのか? サンタクロースがいるって」

 ネズミのチュッパも笑いました。

「え、知らねえの? この村のサンタクロースはあのトナカイのルドルフおじいさんだぞ」

 みんな声を合わせてマイキーを笑いました。

「サンタクロースなんているわけないじゃん、サンタさんはルドルフおじいさんの変装です! ワッハッハ 」

 みんなで指差して、マイキーのことを笑いました。



 マイキーは泣いてお家へ帰りました。



 森のはずれにはトナカイのルドルフおじいさんが住んでいて、昔からずっと村のサンタクロース役をやってきました。


 器用でなんでも作れるおじいさんは、子どもたちに囲まれながらいつもプレゼントを考えていました。


 あの子にはマフラー、

 あの子にはミニカー、

 この子には絵本を、

 その子には靴を、セーターを、鉛筆立てを……。

 子どもたちと遊びながら見て、知って、楽しみながら考えるのが好きだったんです。



 おじいさんも楽しみにしているクリスマス。

 パパもママもおじいさんのことは知っています。

 夢の中で子どもたちは信じています。

 毎年サンタクロースがやってくるのを。


 ****


 マイキーはベッドにもぐりこんで、お友達から笑われたことを気にしていました。

「サンタクロースって、本当はいないんだ……ルドルフおじいさんが、サンタクロース……」

 マイキーは泣いて、また深くベッドにもぐりこみました。



 雪の精の知らせでルドルフおじいさんはマイキーのことを知りました。

 元気のないマイキーのことを。


 ――ああ、わたしは、マイキーに言うべきなのか。本当のことを……。

 おじいさんは思い悩みました。



 十二月二十五日。

 そしてクリスマスがやってきました。

 キラキラきらめくクリスマス。

 年に一度の楽しいクリスマス。

 ノースフォレストの静かな夜も、今夜ばかりはさわがしい。


 ポンッとはじけるシャンパンのコルク。

 ジングルベルの曲が流れダンスが始まります。

 ケーキはいかが? たくさん食べて、お祝いしましょう。

 子どもたちの夢の一夜。



 ……午前二時。

 プレゼントを配り終わって、今年もルドルフおじいさんの仕事は終わりそうです。

 かわいらしい子どもたちの寝顔を思い浮かべて、それぞれに思い浮かべて、うなずきながら、おじいさんはお家へ帰っていきます。


 そのうちゴホッ、ゴホッとおじいさんは咳をし始めました。

 ――うーん、今夜は冷えるわい。今年の冬は寒すぎる。体が芯まで冷えてきた。早く家に帰らねば……。



 マイキーは目を覚ましました。

 ベッドに用意していた靴下の中には〝手袋〟が。


「ルドルフおじいさん……」


 マイキーは家を飛び出してルドルフおじいさんの家を訪ねました。

 一言、おじいさんにお礼を言おうと。

「おじいさん今まで、今まで……」


 おじいさんの家のドアを開けました。

「こんばんは、おじいさん……マイキーです。ルドルフ……」


 見るとおじいさんは暖炉の前、床にうつぶせに倒れていました。

 体は冷たく、動きません。

 何度呼んでも動かずに、床に倒れたままでした。



 ……それから十年。

 今年もノースフォレストにクリスマスがやってきます。


 雪が舞い散る空。

 クマのマイキーは子どもと並んでその空を見上げました。


 ――ルドルフおじいさん、お元気ですか?

 今はぼくがこの子のサンタクロースです。


 この子たちのサンタクロースです。



 ****



 雪の精が舞い、

 風の精が北の方から、

 音の精が鈴の音鳴らして、


 寝静まる村に光をまとって集まってきます。


 かわいい子どもたちに、

 笑顔の君に、

 一人でいるその子に、

 さびしそうなあなたに、

 みんなのもとに。


 サンタクロースは光をまとって。



 おしまい。

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