ep3 後輩

 放課後。部活動で、みんな頑張っているようだ。転校生のオレが部活に入っているかといえば、入っていない。オレは気分転換とこの学校の空気に慣れたいと思い、校舎内をぶらぶら目的もなく散歩していた。そこに……


「ひゃっ!!」

「ん?」

「先輩、汚れますよ!!」

「ん?」


 1人の女の子が飛び出して来た。しかも、絵の具のパレットと水入れを持っている。そして、その飛び出すというのは物理的に本当に宙を浮いている。従って、何があったか理解もできていないのはオレだ。そして、はっ、なるほど!!と思った。カバンをバッと放り出して、女の子を抱えようとした。


「私より避けることを考えてください!!」


オレの着て間もない制服に、絵の具及び水入れの水がバッシャーンと見事にかかった。


「冷たっ」


キャッチもできず、絵の具がかかったなんてダサいオレ。とりあえず手を差し出して、女の子を立ち上がらせた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

「キミの方こそ大丈夫?」

「まぁ、わたしは一応は……。ハッ、今、そのブレザー綺麗にするので、貸してください」


オレは絵の具落としの道具があると思ってブレザーを貸した。しかし、この女の子は急いで水道に持っていって、ジャーとオレのブレザーを水道水をかけた。


「はい、三条先輩!!」

「ありがとう、というかこのビチャビチャのブレザーを着て帰れと!?」

「はい!!」

「いや、転校して早々イジメられたやつみたいにみえるじゃないかよ」

「えー、わたしなりに名案だったのですが。というか、先輩って後輩だったんですね」

「あっ、もしかして、3年生っすか?」

「いえ、わたしは1年ですよ? 1年4組の山下 美波ですよ」

「え、どういこと?オレが後輩って」

「先輩、自分で言ってたじゃないですか、転校生・・・だって」

「ここ数日前に、大阪に来たところだからな」

「まぁまぁ、そんなに怒らず」

「ちょっと怒ってるけど……」

「これも何かの縁ですし、連絡先、交換しませんか?」

「WIREでもいい?」

「もちろん!!」


WIREを後輩の山下 美波さんと交換した。あれ? オレ、クラスメートのWIRE含めて、連絡先交換してない。今度、希咲さんあたりにでも連絡先聞いてみよう。というかブレザー明日までに……乾かないよな。まぁ、先生に事情話してカッターシャツで登校しよう。


翌日。

「失礼しまーす」


2年生の職員室に事情を説明しに行った。今回は仕方がないと言われた。というか、この学校って不思議だよな。各階に職員室があるのだから。担任を持っていない先生は1階の大職員室にいるようだ。不思議だ。


「さってと、教室に向かうか」


教室に向かった。朝のホームルームが来るまで、ぼんやり過ごしている。


「おはよう、空くん」

「おはようーヒミコさん」


希咲さんとは、togetherの相互フォローということがわかってから、なぜかハンドルネームで呼び合うようになっている。昨日、希咲さんとWIRE交換しようと思ったが、togetherでDMで簡単な連絡とれるからいいか。そう思った。


「あっ、空くん、WIRE教えてよ」

「ん、これ、三条」

「ありがとう」

「そういや、今日はなんでブレザー着てないの?」

「まぁ、かくかくしかじかあって」


「三条先輩!! ブラ……じゃなくて、ブレザー渇きました?」


「ブラ!?」


上級生の扉を開けて、異性の名前を呼んで、「ブラ」と叫んだおバカさんは山下さんだ。クラスメートのどよめきを無視した。


「乾いていないよ、ほら、ご覧の通り」



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