トレーナーたちの休日(BL)

※「BL」「ジムのトレーナー」「エロ下着」でお題がありました


職業柄、当たり前のことではあるけれど、世間が「お休み」の日は仕事が忙しくなる。

それでも少しマシなのは忙しい時間が決まっていることと、退勤時間が早いこと。

いつもは22時までフロアに立っていたりする日もあるけれど、祝日であれば19時には終わり。

それから事務処理だなんだとあったとしても、早ければ20時には帰路に就くことだってできる。

今日もそんな日で、早めに仕事を切り上げた俺は早番で先に帰っていあの人の家へ真っ先に向かった。


「ただいまでーす。」

合鍵でドアを開けて入る。

初めの頃にチャイムを鳴らして「お邪魔します」なんて言っていたのが懐かしい。

けれど、いつもなら出迎えてくれる明るい声が今日は帰ってこない。

明かりはついているから居るとは思うんだけど…。

なんとなく静かにリビングのドアを開くと、ソファの上には寝転ぶ家主。

珍しく寝落ちなんてしている。

そう言えば、今日は朝から連続でパーソナルトレーニングが入っていたんだっけ。

真面目なこの人のことだ。早めに起きて準備もしっかりしてたんだろう。

もしかしたら夜も遅かったのかも。

「お疲れ様です。」

クッションに埋まった癖のある髪を撫でようと荷物を置いて側に寄る。


が、その時に気づいてしまった。


ソファの下というかテーブルの下というか、隠れるようにして置いて…いや捨てて?ある黒い塊。

靴下でも脱ぎ捨てたのか?それにしては小さいような…

いつもなら脱ぎ捨てたものに手を伸ばしたりはしないのに、今日は何となく気になって拾ってみる。


「……………。」


思わず黙る。というか理解が追い付かない。いや黙るだろ。だってこれ、


「ティーバック…?」


紅茶を入れるアレじゃない。そんなボケは今は要らない。

黒で、ちょっと透けてて。でもレースなんてついてないし、デザイン的にも大きさ的にも男物だとおもう。いや女物が落ちてても嫌だけど。

なんでこんなの落ちてんの?それこそこの人については下着まで知っているような仲だけど、穿いているのは普通のボクサーパンツだ。

寧ろ俺がブーメランパンツを穿くのを「落ち着かなさそう」なんて言ってた人だ。

それがティーバックって、もっと落ち着かないじゃん。え、まさか別の男?そんなことする人じゃない…じゃないはず。


男の部屋で男の下着を持って混乱する、という間抜け極まる状態に陥っていると、ソファに寝ているた家主がゴソゴソと動き出した。

「あー…おかえり。早かった…」

大きく伸びをする彼と目が合う。俺の手元に視線が移る。また目が合う。

「ちょっ!なに持ってんだよ!」

瞬時に覚醒した彼が俺の手からティーバックを奪い取る。言うまでもなく、耳まで真っ赤だ。

「なにって、落ちてたから拾ったんですよ!何ですかこれ!?どうしたんですか!?」

慎重に聞かねばと思っていたのもすっかり忘れて勢いで口に出す。

向こうは向こうで、クッションの下に奪い取ったものを隠すなり、ぷいっとそっぽを向いてしまう。かわいいと思う自分が憎たらしい。

「気にするな!忘れろ!」

「忘れられるわけないでしょ!何ですかあのティーバック!!」

「大声で言うなよ!なんでもいいだろ!?」

「良くないですよ!誰のなんですか!?他の人のじゃないよね!?気になるじゃん!」

「他のやつのわけがあるか!」

いちばん気になっていた部分を瞬時に否定されて少し安心する。ここでアッサリと嘘を吐ける人ではない。


でも、だとしたら?


しばらく何とも言えない無言が続くと、やがて観念したかのように彼が口を開いた。

「…付き合ったお祝い、って渡された。」

「誰に?」

「俺たちのこと知ってて、こういうことしてくる人いるだろ…。」

「ああ…」

トレーニングゾーンで一緒になる、気さくで爽やかな馴染みの会員さんを思い出す。

いつの間にか関係を察していて、気にかけてくれていたっけ。

「…こういうの弱いと思うって言われた。」

相変わらず耳まで赤くして言うのに思わず笑いが零れる。

性癖を暴露した覚えもなければこういうものに弱いわけでも無いけれど、恥ずかしがって弁明する様子は物凄く可愛い。

「弱いわけじゃないけど…びっくりした。普段、こんなの見ないから。」

「そりゃそうだろ…開けてバラさずにそのまま置いとけばよかった。」

「え?バラす、ってどういうこと。」

「2枚組だったんだよ。試しに穿いてみたけどやっぱり落ち着かな…」




再び沈黙。


2枚組、試しに穿いた、ここには1枚しかない。


つまり、


ひとつの結論に達した俺は、すかさずソファの上の彼に馬乗りになってズボンに手を掛ける。

だが状況を察したのは彼も同じで、必死にズボンを抑えて抵抗してくる。

「何いきなり盛ってんだ!」

「だって試しに穿いたってそういうことでしょ!?見せてよ!」

「弱いわけじゃないんだろ!」

「目の前に現物があるのに見逃すのバカじゃん!」

「見るほうがバカだ!」

普段のトレーニング量も使っているウエイトもほぼ同じ。力が拮抗したまま言い合いは続く。



「いいじゃん、明日休みだし、そのつもりで来たんだし!」

「それと見られるのとは別なんだよ!」



結局どちらが根負けしたか。それはまた今度の機会のお話に。

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