彼女が綺麗なことが悲しい
彼女は髪を巻いてきた。
きらきらした細いカチューシャで前髪を上げてきた。
いつも真っ直ぐに背中に落ちている髪。
長めに伸ばして目にかかる前髪。
柔らかくてさらさらしたそれを、煩わしそうに掻き上げる姿が好きだった。
『おはようございます』
いつものように眠そうな声の挨拶。
それなのにいつもとは違う格好で、とてもどきどきした。
『今日、可愛いね。』
別の女の先輩が彼女を褒めると、照れくさそうに『ありがとうございます』と笑う。
いつもより女の子らしい笑顔が、かわいくて、綺麗で。
それと同時に思い出すのは昨日の彼女の言葉。
『明日は人に会うのに、雨なのかぁ…』
会う人は男の人だと言っていた。
彼女より年上で、彼女より子供っぽいくせに彼女を子供扱いする。
どうしようもなくて、楽しい人。
だから彼女は髪を巻いてきた。
きらきらした細いカチューシャで前髪を上げてきた。
雨で巻いた髪が崩れるかもしれないのに、それでも。
年上のその人のためにそうしたんだ。
『おはよう。どうしたの、ボーっとして。』
自分の席に座りながら笑う彼女。
ああ、やっぱり綺麗だなと思う。
けれど。
彼女が綺麗なことが、俺はとてもかなしかった。
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